第45回 儚い恋という言葉を聞いたときに思い出す詩
儚い恋。
この人、いいな。そう思ってから、気になりだして、その人のことを考えるだけで幸せな気持ちになる。
恋には、さまざまな定義がありますが、そんな幸せな瞬間もあれば、実らず終わってしまう恋もあります。
恋するときに感じる胸のときめきと、実らぬ恋に漏れるため息をイメージして、この詩を読んでみてください。
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Love hath a name of Death:
Christina Rossetti
Love hath a name of Death:
He gives a breath
And takes away.
Lo we beneath his sway
Grow like a flower;
To bloom an hour,
To droop a day,
And fade away.
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恋 その名は死と言う
クリスティーナ・ロセッティ
恋 その名は死と言う
命を吹きこんでは
奪ってゆく
恋に踊らされては
花のようにほころんで
ひととき華やいで
刻々と萎れては
色褪せてゆくもの
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「儚い」と言えば、「火打ち石」や「雪」のクリスティーナ・ロセッティの出番です。
彼女は「谷水の如く清く、夕霧の如くほのかに、散る花の如く侘しさを湛へてゐる」と岩波文庫版の訳者入江直祐氏にも喩えられています。
この詩も、恋というトピックなのに、どこか儚く悲しげなところがロマンチックですよね。
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「死」という言葉にドキッとしますが、花の短い一生と儚い恋を結びつけていて、短い詩が恋の短い命そのもののような趣です。
Grow like a flowerを日本語にするのに、だんだんと胸の中で膨らんでいく恋心とするならば、直線的に茎が「伸びていく」のでなく、蕾が「ほころぶ」とする方が、恋らしくていいなと思いました。
しかし、それも所詮はbeneath his sway「踊らされている」だけで、あっという間にfade away「色褪せて」しまうもの。
後半の4行は、伸びて、咲いて、萎れて、枯れる!まあ、その短さこそが、花の命なのですが。
花がほころぶように、胸の中で膨らむ恋心。想いが実らずに、しょぼくれてしまったときの侘しさ。
恋という感情のジェットコースターを味わうほうは、なかなか心が苦しいのですが、こんな詩になると何故だか美しく感じられて、さすがクリスティーナ!という感じです。
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今回の訳のポイント
19世紀の詩は、多分に聖書の影響を受けています。
この詩でもHe gives a breath/And takes away.「命を吹きこんでは/奪ってゆく」の行は、The Lord gave and the Lord has taken away(ヨブ記1章21節)を元にしていると思われます。
生命の息吹を与えられ、そして奪われる。
恋心を感じるのは、その人や物事に触れることによって、希望や活力に心が満たされて、生きる力が湧いてくるからなんですよね。
そういう意味で、死ぬまで恋していたいなと思います。