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第43回 誰かにものすごく会いたくなったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

会いたい。

昔も今も、「会いたい」の気持ちが人を突き動かします。

テクノロジーによって、人と人との距離が近くなったとも、遠くなったとも言われる現代。

さまざまな条件によって、会いたい人に会えないときがあります。そんなときに思い出す詩があります。

車でも、電車でもなく、小舟を漕ぎ、夜の海を越え、草地をひたすら歩いて会いに行く詩です。そんな夜をイメージして、読んでみてください。

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Meeting At Night
Robert Browning

The grey sea and the long black land;
And the yellow half-moon large and low;
And the startled little waves that leap
In fiery ringlets from their sleep,
As I gain the cove with pushing prow,
And quench its speed in the slushy sand.

Then a mile of warm sea-scented beach;
Three fields to cross till a farm appears;
A tap at the pane, the quick sharp scratch
And blue spurt of a lighted match,
And a voice less loud, thro’ its joys and fears,
Than the two hearts beating each to each!

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夜の密会
ロバート・ブラウニング

灰色の海 長く伸びる漆黒の大地
低く浮かぶ 大きな黄色の半月
おどろき跳ねるさざ波は
目覚めとともに 火の輪のようにしぶきをあげる
波をかき分け 入り江に漕ぎ入れた船は
湿った砂地に 乗り上げた

潮の香りに包まれた暖かな浜辺を ひとしきり歩く
草地を三つ過ぎると やっと農場が見えてくる
窓をそっと叩くと 中では物音がして
マッチを擦る青い火花が飛ぶ
忍びあう二人の喜びと恐れ
何よりも 響きあうふたりの胸の鼓動!

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夜の海を越え、砂浜を越え、草地を越え、やっとの思いで会える、その人。

「会いたい」のひと言で表せてしまう感情を、行動と情景だけで伝えきった、まさに「詩」の中の「詩」と言えるのではないでしょうか。

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何の先入観もなくこの詩を読み始めると、海から陸地へ向かっていますが、目的はわからないまま読み進めることになります。黙々と進む姿から、何らかの目的地を目指していることは確かなのですが、最後の最後で初めて、愛する人だったと分かります。

詩の冒頭では、海と陸地と月だけというイメージによって、スケールの大きさ、会うまでの時間と距離の大きさを感じさせます。

大きなものの次には小さなものが目に入ります。バシャーン、バシャーンと舳先のしぶきが跳ねるのを眺めながら、しぶきを「火の輪」にたとえます。詩の後半の「マッチを擦る青い火花」や「響きあうふたりの胸の鼓動」などとリンクして、情熱を暗示していますよね。

漕ぎいれた入り江は、広い砂浜と違って、intimate「親密で、人目につかない、こじんまりした」場所で、忍びあうふたりの象徴ですね。

ふたりにしか分かり合えないものがある。そんな時に、人と人は強く惹かれあうようにも思えます。

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夜の暗闇の中、黙々と浜辺と草地を歩いて辿り着く農場。暗闇に光るマッチの火花。「やっと会えた!」と、心にも火が灯る、そんな瞬間ですよね。

そっと窓を叩くように、そっと愛を確かめ合いますが、押し殺した声とは裏腹に、高鳴る鼓動は抑えられない。最高にロマンチックですね。

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今回の訳のポイント

この詩は声に出して読むと、音とイメージが強く結びついていることに気がつきます。

冒頭のthe long black land「長く伸びる漆黒の大地」や、large and low「低く浮かぶ 大きな半月」の「L」というのっぺりした音が、広い海や大地をイメージさせます。

また、And quench its speed in the slushy sand「湿った砂地に 乗り上げた」では、「S」の音が浜辺のさざ波の音のようです。

そして、 the quick sharp scratch「物音がして」でも、「S」の音が、押し殺した息をイメージさせます。

詩は、言葉と音とイメージが一体となって、読む人の心に詩人の思い描く世界を見せてくれます。この詩も、「会いたい」の気持ちを心に沸き立たせる、そんな効果にあふれていますね。

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この詩には、he/sheなどの代名詞は登場しません。だからこそ、どんな立場でも「会いたい」の気持ちをのせて読むことができるように思います。

テクノロジーは、時間と空間を超えることを可能にしました。海や砂浜や草原を越えなくても、時間をかけなくても、今の時代、すぐに思いを確かめ合うことはできます。

しかし、誰かに会うために、海を越え、砂浜を越え、草地を越えて行ったことはなくても、それだけの労力と時間をかけてでも、直接会いたい、触れたいと願う気持ちは、テクノロジーが進化した現代でも変わらないように思います。

遠くにいる人を強く思うとき、時空を飛び越えて、心だけでもあの人に会いに行けるのだろうかと思うとき、二人を隔てる広い海や波のしぶき、足の裏に感じる砂や、波打つ草原を思い浮かべてみようと思います。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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