第42回 星を見上げたときに思い出す詩
ゆく年くる年。
人の世は移り変わりますが、歳月を経ても変わらず、空に輝くものがあります。銀河系だけで1000億個あると言われる星。
宇宙の深部に、深海の底に、洞窟の奥に、まだまだ人間には知らない神秘が眠っています。
そんな深遠なる神秘の虜になったときに思い出す詩があります。
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I Know The Stars
Sara Teasdale
I know the stars by their names,
Aldebaran, Altair,
And I know the path they take
Up heaven’s broad blue stair.
I know the secrets of men
By the look of their eyes,
Their gray thoughts, their strange thoughts
Have made me sad and wise.
But your eyes are dark to me
Though they seem to call and call—
I cannot tell if you love me
Or do not love me at all.
I know many things,
But the years come and go,
I shall die not knowing
The thing I long to know.
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星なら知っているよ
サラ・ティーズデイル
星なら 名前は知っているよ
アルデバランにアルタイル
星が 辿る道も知っているよ
広い空の青い階段を登るでしょ
人間の秘密 それも知っているよ
目を見れば分かるでしょ
暗い気持ち おかしな気持ち
それで悲しくもなるし賢くもなる
でも君の瞳は 全然分からない
わたしのことを呼んでいるんでしょ
わたしのことは好きなのかな
それとも好きでもなんでもないのかな
たくさんのこと 知っているよ
でも年月が行き また過ぎても
知らないまま死んでしまうのかな
ずっと知りたくてたまらないことを
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詩が進むにつれ、「星」→「人間」→「君」と、描く対象が身近になっていき、最後には「好き」の気持ちを推し量るという、ロマンチックな結末を迎えます。
星にも、ひとりの人間にも神秘が宿ること、どんなに科学が発達しても分からないことがあるということが、心に響いてきますね。
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この詩をとりわけ美しくしているのは、「人間」一般のことは分かると言ってから、でも「君」のことは分からないと言う点です。
ひとの目の表情から気持ちを理解できると言ってみたものの、目の前の「君」の目を覗き込んでも、一番知りたい「好き」の気持ちを読み取ることができない。
年月をかければ、知識を増やすことはできます。しかし、本当に知りたいことは、結局知りえないのだと。
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今回の訳のポイント
この詩の冒頭で、I know the stars by their names「星のことなら知っているよ 名前ならね」とあります。
By their names「名前は」という但し書きつきなので、それ以外のことは分からないことを伝えています。
And I know the path they take「星が 辿る道も知っているよ」とあり、惑星の軌道や星図上の配置のことを言っています。
名前は、人間が人為的に与えたものであり、星の動きは科学の力によって計算されたものと言えます。
ものごとを理解するために、私たちは名前を与え、法則を見出そうとしてきました。
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それに対して、「好き」の気持ちはどうでしょうか。
ときに、相手をよく知っていることが安心感につながり、逆に、相手について分からないことが多いと不安を感じると言われたりもします。
しかし、その人について知りたい、何かまだ自分が知らない宝物のような魅力があるのではないか、そう思うほどに惹きつけられてゆくことがあるのも事実なのです。
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未知なるものへの恐怖や、分からないことへのあきらめを感じてしまったら、人類はここまで進歩を遂げていなかったでしょう。
知りたい、理解したいという欲求と探究心が知の世界をひろげ、また、人と人との深いつながりを生みだしてきました。
社会にも人との間にも、わたしたちは日々様々な困難を抱えて生きています。
しかし、心が追い求めてやまない、未知なるものへの「恋心」を忘れずに、未来を切り開いていきたいと思います。