第40回 雪がしんしんと降り積もるときに思い出す詩
雪の夜。
身に沁みるような寒さが降りてきて、あたりは静けさに包まれます。
しんしんと雪が降る夜の闇と静寂。真冬の厳しさを感じるときに思い出す詩があります。
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A Christmas Carol
Christina Rossetti
In the bleak mid-winter
Frosty wind made moan,
Earth stood hard as iron,
Water like a stone;
Snow had fallen, snow on snow,
Snow on snow,
In the bleak mid-winter
Long ago.
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クリスマス・キャロル
クリスティーナ・ロセッティ
わびしき真冬のこと
凍えるような風は唸り
鉄のごとく大地は固まり
石のごとく水も凍る
雪は降り積もる
しんしんと降り積もる
わびしき真冬のこと
昔むかしのこと
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真冬の厳しい寒さと、ひっそりとした静けさが、身に沁みてきますね。
土と水は凍り果てじっと黙っています。その上で、雪まじりの風だけがヒューヒューと音を立てて吹き過ぎていく。
そして、物言わぬ雪は、ただひたすらにしんしんと降り積もってゆく。
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これは、「クリスマス・キャロル」というタイトルの通り、キリスト降誕を描いた詩の冒頭で、クリスマスと言えばどこかで誰かが朗読したり、歌曲になっていたりと、冬の詩の定番となっています。
クリスティーナ・ロセッティは、火打ち石の詩のように、静謐なテーマを軽やかなリズムで詠った詩が特徴で、この詩も、思わず声に出して読みたくなります。
Earth stood hard as iron「鉄のごとく大地は固まり」、Water like a stone「石のごとく水も凍る」という繰り返しのリズムが、Snow on snow「しんしんと降り積もる」と呼応して、止むことなく静かに雪が降り積もってゆく様を、象徴しています。
視覚的な情景を伝える文体のリズム。思わず首をすぼめてしまいそうになるほどに、冬の寒い雪の夜を体感できる言葉。
こんなにも親しみやすいのに、身に心に深く沁みる。だからこそ愛されるのだと思います。
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今回の訳のポイント
Snow on snow=「しんしんと降り積もる」と、品詞など気にせずに、反射神経的に日本人は訳すのではないでしょうか。
日本人にとって定番とも言える、三好達治の「雪」に通じるものがあるように感じます。
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
少ない言葉のシンプルなリズムだけで、情景を伝えているところに、詩の魅力が詰まっていますよね。
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クリスティーナ・ロセッティの全詩集は、わたしのもっているペーパーバックでは1000ページを超えるのですが、おそらく開いた回数は最も多い詩集のように思います。
大げさでもなく、飾り立てるのでもなく、でも澄んだ洞察力と明晰な言葉で、直截に語ってくれることの心地よさ。
音楽のように、いつもそばにあって、どんな気分のときも響く言葉がある。
まさに、友人のような詩人と言えますね。