第37回 落ち葉の森を歩くときに思い出す詩
落ち葉が地面を覆いつくす秋。
ガサガサと落ち葉をかき分け、木々の間を歩くのは楽しいものです。陽が落ちて、辺りが暗くなってくると、空には星が瞬き始めます。
そんなときに思い出す詩があります。落ち葉の森を思い浮かべながら、まずは読んでみてください。
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Leaves
Sara Teasdale
One by one, like leaves from a tree
All my faiths have forsaken me;
But the stars above my head
Burn in white and delicate red,
And beneath my feet the earth
Brings the sturdy grass to birth.
I who was content to be
But a silken-singing tree,
But a rustle of delight
In the wistful heart of night—
I have lost the leaves that knew
Touch of rain and weight of dew.
Blinded by a leafy crown
I looked neither up nor down—
But the little leaves that die
Have left me room to see the sky;
Now for the first time I know
Stars above and earth below.
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落葉
サラ・ティーズデイル
ひとつ またひとつ
舞い落ちる木の葉のように
信じていたものに見放されてしまったの
でも見上げた空には星が
白や やさしい赤の輝きを放っている
足元の大地には草が
力いっぱいに伸びてくる
不満もなくただ過ごしていたわたし
でも木々のなめらかな歌声が
歓びをささやくさざめきが
切ない夜の胸の中に聴こえる
葉は失われたけれど
降りかかる雨 雫の重さを
今は感じる 覆う葉のせいだったのね
空も大地も見ることがなかったけれど
小さな葉が一枚一枚散っていった今
すき間から空が見える
それでやっと気づいたの
見上げる星が 踏みしめる大地が
あることを
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葉を落とした木々のすき間に見える空、足元に広がる一面の落ち葉の絨毯。
葉が散ってしまったことは悲しいけれど、それによって見えていなかったものが、目に入るようになった。
その驚きと感動が、Stars above and earth below「見上げる空 踏みしめる大地」に象徴されていますよね。
そんな落ち葉の森の情景を、こんなに切なく、想いをこめて、描いてくれるなんて!
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詩の冒頭で、One by one, like leaves from a tree「ひとつ またひとつ 舞い落ちる木の葉のように」とあるので、落ち葉の森の情景を描きつつも、落ち葉そのものは何か抽象的なものを表していると気づきます。
次の行に、All my faiths have forsaken me;「信じていたものに見放されてしまったの」とあるので、それまで信じて来たものが、もう信じられなくなってしまったのだと分かります。
信条、愛情、何であれ、I have lost the leaves that knew「葉は失われた」という喪失感の象徴として、落葉は描かれています。
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しかし、この喪失体験によって、全く別の感動を味わうことになります。
それが発見の驚きであり、葉が落ちた森で、But the stars above my head「見上げた空には星が」あり、And beneath my feet the earth「足元の大地」にはしっかりと草が生えてくると、改めて気づかされるのです。
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それまで自分を守ってくれる屋根のように思えた信条や愛情が、実は自分の可能性を制限する天井だったかもしれない。だから、Blinded by a leafy crown「気づかなかった」のかもしれない。
しかし、覆いが無くなった今、自ら世界に開かれ、生身の肌感覚を取り戻せる。
だから、葉は知っていたTouch of rain and weight of dew.「降りかかる雨 雫の重さを 今は感じる」ことができるのだと。
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今回の訳のポイント
この詩をチャーミングにしているのは、耳に、そして口に馴染むシンプルな韻です。
tree/me, head/red, earth/birth, be/tree, delight/night, knew/dew, crown/down, die/sky, know/belowなど、自分でも詩を書いてみたくなるような、素朴な韻ですよね。
音は素朴なのに、意味は奥深い。詩の魅力を語るのに、ピッタリの詩です。
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葉を落とすことは、やがて来る春、つまり再生の象徴。
心だって、同じように、何かを失っても別の可能性に出会える。
そんなことを思うと、ガサガサと歩く落ち葉の森も、希望に満ちているように感じませんか。