第34回 若さを失ったと感じるときに思い出す詩
いつまでも若々しくいたい。ひとはそう言います。
若さとは、見た目の若さだけでなく、心の若さを指すこともあります。心の若さって何だろうかと考えるときに、思い出す詩があります。
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Wisdom
Sara Teasdale
When I have ceased to break my wings
Against the faultiness of things,
And learned that compromises wait
Behind each hardly opened gate,
When I have looked Life in the eyes,
Grown calm and very coldly wise,
Life will have given me the Truth,
And taken in exchange—my youth.
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知恵
サラ・ティーズデイル
その度に翼を折るのはもう止めた
世の中は間違ってることだらけって
いつも落胆してたけど
妥協というものの存在に気づいたの
開かずの門と思っていたけど
人生ってものをまじまじと見てみた
すごく冷静になった気がする
真実ってものを教えてくれる気がする
そして奪われるんだね
若さを
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翼は、どこにでも飛んでゆける自由の象徴。心に翼があれば、こうあるべきだと信じられていることや定められていることの枠組みを越えてゆける。
逆に言うと、こうあるべきだと主張したくても、慣例や因習に従わざるをえない時、間違っていることに目を瞑らざるをえない時、翼を折られたように感じる。
枠にとらわれない自由な発想、悪いものは悪いと言う正義感、これらが翼に象徴される「若さ」のようです。
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しかし、When I have ceased to break my wings「翼を折ることを止めたとき」、人生の門が開かれます。
世の中の不正にその都度腹を立てたり、理想を追求しては夢破れたりするのでなく、And learned that compromises wait「妥協というものの存在に気づいた」とき、処世術というものを知るわけです。
Behind each hardly opened gate,「固く閉じられていた人生の門の奥」にある「妥協」によって、疑問や矛盾をグッと飲み込んで、とにかく前にすすむこと。それが、ときに人生を前進させる助けにもなるのです。
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こうして、世の誤りに熱く憤慨することもなく、Grown calm and very coldly wise,「すごく冷静になれて」、冷めた目で人生を見るようになったとき、Life will have given me the Truth,「人生は真実を教えてくれる。」
つまり、「世の中ってそんなものだよね」とあきらめたとき、And taken in exchange「引き換えに奪われる」ものがあると。
それが、「若さ」だと。
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今回の訳のポイント
詩は、象徴的なシンボルを使って、読む人の心にイメージを喚起させます。
この詩では、「翼」と「門」が特徴的です。一方が、開かれた自由を象徴するならば、もう一方は、開け方を知らぬ者には閉じられたものとして立ちはだかります。
大人になるにつれて、間違っていることにも目を瞑り、妥協しながら生きて行くようになる。
「若いなあ」と思う人って、そこをあきらめずに、理想と正義を追求するアツい気持ちを捨てていないんですよね。
私自身、数え切れないほどに「翼」を折ってきましたが、こうした詩を読むと、切なさに胸がキューっと締めつけられます。