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第33回 鷲を見たときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

海辺の断崖絶壁。

打ちつける激しい波。湧き上がるしぶきと飛び交う海鳥。

と、その崖頭に佇む鷲が一羽。それが、今回の詩の主人公です。

鷲の姿を追う、ネイチャードキュメンタリーのカメラマンになったつもりで、次の詩を読んでみてください。

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The Eagle
Alfred Tennyson

He clasps the crag with crooked hands;
Close to the sun in lonely lands,
Ring’d with the azure world, he stands.
The wrinkled sea beneath him crawls;
He watches from his mountain walls,
And like a thunderbolt he falls.

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アルフレッド・テニスン

その鉤爪で崖頭を固く掴む
寂寥の土地にあって むしろ太陽に近く
蒼穹の下にあって 屹立す
眼下で波立ちうねる海原
崖壁より睨みをきかせては
雷のごとく急降下

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「断崖絶壁に立つ鷲が、獲物めがけて急降下する。」

それだけを描いているたった6行の詩ですが、まるでドキュメンタリーの映像のように鷲の姿を捉えています。

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カメラはまず、鷲の足先、そのcrooked hands「鉤爪」にフォーカスします。しっかりと断崖を掴んでいる、その力強さを伝えます。

次に、一気にズームアウトして、in lonely lands「大自然」の中の小さな存在であると感じさせます。

しかし、鷲の存在感が別格なのは、Close to the sun「太陽に近く」、大地よりも天空を住処としていて、太陽のような神聖さをもつ、その気高さゆえなのです。

背景に見えるのは、the azure world「抜けるような青い大空」で、大いなる自然に祝福されているようですね。

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と、ここでカメラは、崖下のthe wrinkled sea「波立つ海」、そのしぶきにフォーカスします。鷲を誘い込むかのごとく、海面はうねり沸き立ちます。

そして、再び視点を鷲に戻すと、じっと崖下を見つめ、獲物を狙っている姿が目に入ります。

と、その刹那、like a thunderbolt「雷(いかづち)のように」一直線に降下していく。

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いかがでしょうか。19世紀半ばを代表する詩人テニスンの作品の中でも、かなり短い詩ではあるのですが、ネイチャードキュメンタリーのカメラテクニックさながらに、視点を移動しながら、断崖絶壁に立つ鷲の誇り高い佇まいを捉えています。

フォーカスを絞ったり、ズームイン・ズームアウトしたりすることが、言葉でも容易にできます。この詩のカメラワークは、そのお手本のようですね。

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今回の訳のポイント

この詩は、声に出して読んでみると、一層興味深いです。というのも、音がイメージを喚起する役割を大いに果たしているからです。

例えば、一行目では「c」が特徴的です。

He clasps the crag with crooked hands;

Clasp/crag/crookedというように、喉の奥で響く硬い「k」の音が、ゴツゴツした岩や、それをガッチリ掴んでいるカギヅメのイメージそのものです。

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また、別の行では「r」の音が特徴的です。

The wrinkled sea beneath him crawls;

Wrinkle/crawlというように、喉の奥から響かせる丸味のある「r」の音が、海のうねりのイメージですね。

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以前、「青い空が映る青い湖面を青い鳥が飛んで行った。」のを描いただけの詩を取り上げたことがありました。その詩でも、効果的なカメラワークが特徴的でした。

言葉にできない感情や、世の中の真実を伝える詩も良いですが、視点の移動と言葉の響きで映像的イメージを伝える詩も同じように美しく、味わい深いと感じます。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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