第32回 不器用なひとに出逢ったときに思い出す詩
不器用な恋。不器用な生き方。
不器用という言葉は、様々に使われますが、不器用って、どんなことなのかなと考えていたときに、思い出した詩があります。
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The Bungler
Amy Lowell
You glow in my heart
Like the flames of uncontrolled candles.
But when I go to warm my hands,
My clumsiness overturns the light,
And then I stumble
Against the tables and chairs.
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不器用なひと
エイミー・ロウエル
このこころには輝く君がいて
揺れるろうそくの火のようで
手を暖めようとすると
自分ってドジだから ひっくり返してしまう
それで慌てては
テーブルや椅子に つまづいてしまう
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ろうそくを倒してしまって慌てているうちに、今度はテーブル椅子につまづいてしまう、その姿が、The不器用!という感じですよね。
不器用には、二通りあると感じます。一つは、その感受性によって、あまりに多くのことを考慮に入れてしまうために、スムーズに物事が進められないパターン。
深く考えずに、または思い込みで行動する人は、選択に迷いがありませんし、相手の事情など考慮しないので、行動も一直線です。
しかし、相手の気持ちや事情が認識できてしまう人は、自分の思いだけで物事を進められなくなってしまいます。
そうしているうちにチグハグになってしまう。それは生き方の技術云々というよりも、人を思いやる優しさゆえと思います。
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倒れそうなろうそくを守ろうとすると、今度は椅子やテーブルにぶつかってしまう。
全方位に気を配ろうとしてうまくいかないもどかしさが感じられますね。
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もう一つは、対象に思いを寄せすぎて周りが見えなくなるパターン。
その感受性と愛情深さによって、ひとつの言葉や物事に対して、懸命に時間とエネルギーを投じてしまう。他にもやるべきことがあっても、自分なりに納得がいくまで取り組みたいと思う。
何もそこまでしなくてもと周りは言うのですが、本人の中での納得感が基準なので、時間と愛情の限りを注ぎ込んでしまう。
往々にして、完全に納得できる境地に達することも難しく、妥協を迫られ、くすぶった気持ちだけが残ったりもするのですが。
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手を暖めようとろうそくに手をかざすと、大事な火を自ら倒してしまったり。大切に思いながらも、うまくいかないもどかしさ。The不器用ですね!
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今回の訳のポイント
英語では、モノやコトが主語になることが少なくありません。そんなときは、日本語に訳す際に、主語を「動作の要因」として訳すことになります。
My clumsiness overturns the light,では、不器用「なので」ろうそくを倒してしまうと言えます。
「ドジ」も「おっちょこちょい」も、軽く卑下する感じの響きになりますが、「不器用」からは、一生懸命さともどかしさが伝わってきますよね。
エイミー・ロウエルは、タクシーの詩などもそうですが、20世紀初頭に愛の諸相を現代的に描いた名手です。
この詩でもYou glow in my heart「このこころには輝く君がいて」とロマンチックに始まり、ろうそくのイメージから、不器用というコンセプトを描くなんて!詩っていいなと、つくづく思います。