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第28回 夏の思い出に浸るときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

強烈な体験は、ときに、人を変えてしまうことがあります。

ものの見方や生活様式が、昨日までとは変わってしまうこと。表向きは何も変わっていないように見えて、心や頭の中には、昨日と違う自分がいること。

そんな変化を歌った詩を紹介したいと思います。島で過ごした夏が素晴らしすぎてということなのですが、、、

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If Once You Have Slept On An Island
Rachel Field

If once you have slept on an island
You’ll never be quite the same;
You may look as you looked the day before
And go by the same old name,
You may bustle about in street and shop
You may sit at home and sew,
But you’ll see blue water and wheeling gulls
Wherever your feet may go.
You may chat with the neighbors of this and that
And close to your fire keep,
But you’ll hear ship whistle and lighthouse bell
And tides beat through your sleep.
Oh! you won’t know why and you can’t say how
Such a change upon you came,
But once you have slept on an island,
You’ll never be quite the same.

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島で夜を明かしたら
レイチェル・フィールド

島で夜を明かしたら
違う自分になってしまうはず
見た目は昨日と何も変わらないし
名前だって変わるわけじゃない
通りやお店を歩くこともあるかもしれないし
家でくつろいで編み物したりするかもしれない
でも 目に浮かぶのは青い海 白いカモメ
どこへ行っても 思い浮かべてしまう
近所の人とあれこれおしゃべりするかもしれないし
暖炉の火で身体を暖めることもあるかもしれない
でも 聴こえるのは船の汽笛 灯台の鐘
夜通し打ちつける波の音
ああ なぜ どうやって
こんな風に変わってしまったのか
わからないけど
島で夜を明かしたら
違う自分になってしまうはず

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人としての生き方を問うような壮大な展開を期待すると、すこし拍子抜けしますよね。

歌われているのは、楽園のような島での暮らし。そこを離れてからも消えない、生活に刻まれたリズム。ただ、それだけのこと。

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それまでの生活では考えられなかったことが、自分にとっての日常になるという変化。わたしたちは日々、小さな新しい現実を経験しながら生きていて、その変化の積み重ねが自分という人間を作っているのだとも言えます。

素敵な人に出逢った喜びに胸の高鳴りが治まらなかったり、自分や家族が病気だとわかって同じような日々は送れないとわかったり。

名前も見た目も変わらないけれど、自分の中では確実に何かが変わってしまった感覚。それまで興味のなかった話題が気になったり、周りにも同じ思いを抱えていた人がいたと気づいたり。

一度こうした変化を経験してしまうと、昨日までと同じようには世界を見られなくなります。そうして、島での素敵な生活が忘れられない人のように、日常を送っていても、何か違うことに思いを馳せてしまうのです。

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このことから感じるのは、変化をもたらすものは、外面的なことの大小ではなくて、自分自身にとっての思い入れの大小と言えるかもしれないなということです。何事も「自分ごと」として経験してみないと分からないと言えますね。

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今回の訳のポイント

心に刻まれた印象を語るために、この詩では五感に関わる表現が効果的に使われています。

島の思い出は、青い海や白いカモメといった色だけでなく、波の音はもちろん船の汽笛や灯台の鐘といった音で語られます。また、日常は、通りやお店、近所の人との会話という対人的な時間と、編み物や暖炉といった一人の時間の両面で成り立っています。

こうした具体的な表現が、鮮明なイメージを喚起してくれています。

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そして、結論であるYou’ll never be quite the same.は「同じではなくなってしまう」=「違う自分になってしまう」としてしてみました。

島で素敵な時間を過ごしただけで、そんな大げさなと思うかもしれません。しかし、3か月で身体の細胞は入れ替わるとも言われますし、誰もが思い出を重ねて、違う人間になっていくということを、この可愛らしい詩は感じさせてくれます。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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