第23回 ロマンチックな夜を過ごすときに思い出す詩
詩は、ロマンスの宝箱。
ロマンチックで官能的なドキドキを味わいたいときに、思い出す詩があります。
強く奔放な女神と、弱さを抱えた男という典型的な男女像を描いてはいるのですが、それを『赤毛のアン』の作者、ルーシー・モード・モンゴメリーが詩にすると、最高に甘い響きになります。
部屋の明かりを落として、ロマンチックな気分で読んでみましょう。
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Twilight
Lucy Maud Montgomery
From vales of dawn hath Day pursued the Night
Who mocking fled, swift-sandalled, to the west,
Nor ever lingered in her wayward flight
With dusk-eyed glance to recompense his quest,
But over crocus hills and meadows gray
Sped fleetly on her way.
Now when the Day, shorn of his failing strength,
Hath fallen spent before the sunset bars,
The fair, wild Night, with pity touched at length,
Crowned with her chaplet of out-blossoming stars,
Creeps back repentantly upon her way
To kiss the dying Day.
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薄明
ルーシー・モード・モンゴメリー
朝焼けの谷間から 昼が夜の背中を追いかけた
悪戯な夜は 駆け足で西へと逃げてゆく
躊躇うことなく気まぐれに飛び去ってゆく
追いすがる昼に 淡い一瞥を残し
クロッカス咲く丘や 鈍色の草原を渡り
足早に 夜という乙女は去って行った
夕暮れ時 昼はその輝く力を失い
日没の関門の前で倒れてしまった
美しく無邪気な夜は 遂に心動かされ
煌めく星屑を繋いだ花冠を被り
名残惜しげに そっと戻って来て
息絶えようとする昼に口づけする
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追いつ追われる男女を、昼と夜になぞらえたロマンチックな詩ですね。昼と夜という自然の事物を歌っているのに、ゾクゾクするほどの官能的な響きを感じるのは何故でしょう。
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前半は夜明けのシーンで、夜に象徴される女性を、男性の昼が追いかけます。
朝が来たということは、夜は去らなければいけない。野を越え、丘を越え、暗い夜は西へ西へと遠ざかっていきます。
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後半は、黄昏のシーンで、昼と入れ替わるように夕闇が迫ってきます。昼の光が傾き力を失うと、夜が現れて、昼を眠りにつかせます。
死にゆく昼に口づけする夜。その髪に光るのは、星屑の花冠!
いやはや、何ともロマンチックで、読んでいるこちらまでドキドキしてしまいますね。
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今回の訳のポイント
日本語に訳しにくい代表例である、his/herが今回の詩のポイントになっています。
3行目でherと言われてはじめて、夜が女性で、昼が男性という役柄を理解できます。主語が入り乱れていること、そして「彼女」という教科書的訳語を避けたく、とても悩みましたが「乙女」という言葉を入れてみました。
どこか弱さを抱えた男と奔放な女という図式は、ステレオタイプなアーキタイプとも思いますが、夜と昼が入れ替わるさまが、こんなにも甘美な詩になるなんて!
愛の焦燥と、愛の優しさ。
愛の両側面を、つらいとも愛おしいとも言わずに伝える、そんな言葉運びにメロメロになってしまうのは、わたしだけでしょうか。