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第22回 タクシーに乗ったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

夜の街灯りが好きです。

何もない草原や海も好きですが、魑魅魍魎とした都市の魅力もありますよね。

そんな夜の雑踏で繰り広げられる男女の恋愛模様。

今回ご紹介する詩は、別れ話のあとに、語り手の女性がタクシーに乗り込んだところから始まります。

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The Taxi
Amy Lowell

When I go away from you
The world beats dead
Like a slackened drum.
I call out for you against the jutted stars
And shout into the ridges of the wind.
Streets coming fast,
One after the other,
Wedge you away from me,
And the lamps of the city prick my eyes
So that I can no longer see your face.
Why should I leave you,
To wound myself upon the sharp edges of the night?

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タクシー
エイミー・ロウエル

君と別れて
世界中の音が止んでしまった
ゆるんだドラムのように
ひときわ輝く星に向かって君の名前を呼んでみる
吹きすさぶ風に向かって叫んでみる
街の通りが
ひとつふたつと通り過ぎていく
くさびを打つかのように君を遠ざけてしまった
街の灯りが目に突き刺さって
君の顔はもう見られない
どうして別れなければいけないのか
わたし自身を痛めつけたいのか
夜の鋭い刃で

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まずこの詩の驚くべき点は、1914年の作品ということ。

100年以上も前に書かれていますが、現代の詩か歌詞のように、エッジの効いた言葉がビートを打っていますよね。

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海外の映画やドラマで、別れ話と言えば、大抵どちらが振ったのかというシーンが出てきます。

“I left you.”「振ったのはわたしの方」”You left me.”「振ったのはあなたの方」というセリフですね。この詩では、別れを切り出したのは女性の方。

しかし、別れたあとの虚脱感(a slackened drum「ゆるんだドラム」)や、思い出(the jutted stars「ひときわ輝く星」)、不安(the ridges of the wind「吹きすさぶ風」)が押し寄せてきます。

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弱く柔らかくなった心に突き刺さる街の灯り、二人で過ごすはずだった夜が、今は独りになった自分に襲いかかってくる。

無防備に、ただ独り、再び世界に放り出された心細さ。人との別れの強烈な感情が、タクシーとともに街を走り抜ける。そんなクラクラするような鮮烈なイメージを伝える言葉が、心に突き刺さりますね。

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今回の訳のポイント

100年前に書かれた詩から感じる現代的な雰囲気。そのエッジの効いた言葉の特徴とは何でしょうか。

別れたあとの虚脱感を表すa slackened drum「ゆるんだドラム」、思い出としてのthe jutted stars「ひときわ輝く星」、不安を表すthe ridges of the wind「吹きすさぶ風」などに使われる単語が、一般的でない言葉の組み合わせで、大きな役割を果たしています。

異質なものを組み合わせることで生まれるオリジナルな言葉。次の100年後にも、自分の言葉はオリジナルな響きを保っているのか、気になったりもします。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END