第17回 勇気が必要なときに思い出す詩
人生は、思いがけないタイミングで、試練を与えたり、分かれ道を用意したりします。
自分にとって未知の状況に飛び込むのには、勇気が要ります。それまで当たり前と思っていたものを失ってもなお歩み続けるのには、勇気が要ります。
そんなとき思い出す詩があります。
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To Life
By Lizette Woodworth Reese
Unpetal the flower of me,
And cast it to the gust;
Betray me if you will;
Trample me to dust.
But that I should go bare,
But that I should go free
Of any hurt at all —
Do not this thing to me.
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人生に
リゼット・ウッドワード・リース
わたしという花びらは 引きちぎって
吹く風に 預けてください
裏切りたければ お好きにどうぞ
容赦なく 塵や埃にしてください
自分をさらけ出すこともなく
傷つくことも
一切なく ―
そんなのわたしは嫌だ
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どんなこともあり得る人生、だからこそ、苦しみも受け止めて生きていこう。そんな覚悟が、詩全体から感じられますね。
リゼット・ウッドワード・リースは、「花の詩人」と呼ばれるほどに、花を詠った詩人です。
この詩でも、冒頭に花が登場します。花を咲かせるには、時間と手間と愛情が必要です。
しかし、ここではUnpetal the flower of me「私から花を剥ぎ取ってください」と、大事に育てた花を、大事に生きてきた自分を、容赦なく引きちぎるよう、人生に懇願しています。
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人生は一度きりなので大事に生きよう、そう言われることが多いです。
そのために、自分の能力やチャンスを最大化しようと、人は時間やお金を投資します。
科学技術が進歩して、大抵の面倒が除去された暮らし。様々なサービスが用意され、目標実現の手段が手に入る人生。
しかし、人生の風は突然あらぬ方向から吹き、すべてを塵にしてしまうことがあります。
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とすると、大事なのは、いかに苦痛を排除するかでなく、いかに痛みとともに生きていくかということになりそうです。
この詩の後半で、「自分をさらけ出さない、傷つくことも一切ない、そんなのは嫌だ」と言い放ちます。
心をさらけ出して、傷つくこともある。出会いの数だけ、別れることもある。
そして、誰にも訪れる、死という敗北。
この痛みは、どんな技術を使っても取り除けません。負けると分かっている、この勝負を前にして、怯まずに毅然として立ち向かえるか。そんなときに勇気が必要なのです。
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今回の訳のポイント
詩の後半が非常に難しいです。But thatは、「〜せずに」「〜を除いて」というような意味です。また、shouldは否定的な目的を述べる際に使われるタイプのもので、次のように訳せます。
・But that I should go bare「自分をさらけ出さずに」
・But that I should go free of any hurt at all「一切傷つかずに」
自分を塵や埃にするよう訴え、技術や手練手管を弄することをせず、傷つくことを恐れずに、生身の自分で戦うことを宣言する。生きることの誇りと潔さが感じられ、読むたびに心が震えます。
表層にある花びらを剥ぎ取られたあとに残る、自分の核となるような気概や勇気、そういったものを大切にしたいものですね。