第15回 大切なものを失ったときに思い出す詩
人生は変化の連続。大切と信じていたものが突然失われ、新たな現実に向き合わなければいけないことがあります。
しかし、理屈では理解できても、自分の心の一部が失われたような気持ちを、隠しきれないときもあります。
そんなもどかしい気持ちを、丸ごと受け止めてくれる、やさしい友人のような詩があります。
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Let It Be Forgotten
By Sara Teasdale
Let it be forgotten, as a flower is forgotten,
Forgotten as a fire that once was singing gold,
Let it be forgotten for ever and ever,
Time is a kind friend, he will make us old.
If anyone asks, say it was forgotten
Long and long ago
As a flower, as a fire, as a hushed footfall
In a long forgotten snow.
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思い出せなくてもいいから
サラ・ティーズデイル
思い出せなくてもいいから
咲き終わった花が 忘れられてゆくように
燃え上がった炎が 忘れられてゆくように
もう二度と思い出せなくてもいいから
「時」はやさしい友だち 年はとればいい
誰かに聞かれたら 忘れられてしまったと言おう
ずっとずっと昔に忘れられてしまったとね
花のように 炎のように 足音のように
忘れ去られた
雪の中で
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「思い出せなくてもいい」「忘れてもいい」そう繰り返すほどに、大切に思う気持ちが、忘れられない辛さが、募ります。
この詩は、”Time is a kind friend, he will make us old.”「時はやさしい友だち 年はとればいい」と慰めてくれます。
「時はやさしい友だち」とはどういうことなのでしょうか。
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花は美しく咲き、火は煌々と燃え上がり、足音は確かに響く。それらは美しい。しかし、消えていく。
季節が巡れば、花はまた咲きます。火はまた輝かせればいいし、自分の足音もまた響かせればいい。
覆い隠すように積もる雪も解け、次の雪がまた大地を覆う。
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諸行無常と言われるように、万物は流転し、永遠に続くものなどない。
そうやって、消えるものがあれば現れるものがある。それとともに年輪を重ねればいい。そう理解できそうです。
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しかし、それでもなお、枯れゆく花を捨てられず、くすぶる火をいつまでも消せずにいる。そんな自分がいます!
歳月が過ぎても疼く心の奥に刻まれた記憶や傷跡。はたして「時」は癒やしてくれるのか。もう少し年を重ねる必要があるようです。
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今回の訳のポイント
Let it be forgottenというタイトルが、難しいです。
「忘れられるままにしよう」という意味ですので、単に「忘れる」のでなく「忘れられる」となりますし、Forget it.「忘れてしまいなさい」とも違うトーンです。
ここでは、時の流れに身をまかせてしまおうというメッセージはそのままに、発想の転換で「忘れられてもいい=思い出せなくてもいい」としてみました。
ただ、「思い出せない」ということは、記憶の何処かには残っている。そんな僅かな希望も託してみました。
未練や後悔も糧にしよう。いつまでも振り返りたくなるような今日を、瞬間ごとを記憶に刻みこむように、生きよう。
そう思う自分の青臭さが、恥ずかしくもあり、誇らしくもあります。