第13回 蛍を見たときに思い出す詩
夏はやっぱり夜が良いですよね。月が出ている夜はもちろんですけど、月のない真っ暗な夜も良くて、蛍が飛び交っているのも、仄かな光がひとつふたつと飛び去っていくのも、良いですよね。
蛍について書こうとしたら、そのまま『枕草子』の現代語訳になってしまいました!現代でも全く違和感のない感性と文のリズム、恐るべし!
夏は、夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛び違ひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、をかし。
さて、そんな風に暗闇で凝集して灯る蛍たちの光をイメージすると思い出す詩があります。人間には2タイプいて、という詩なのですが、蛍と一体どんな関係があるのか、まずは読んでみてください!
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Some People
By Rachel Field
Isn’t it strange some people make
You feel so tired inside,
Your thoughts begin to shrivel up
Like leaves all brown and dried!
But when you’re with some other ones,
It’s stranger still to find
Your thoughts as thick as fireflies
All shiny in your mind!
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こういう人いるでしょ
レイチェル・フィールド
不思議だね こういう人いるでしょ
心の芯まで疲れさせる人
心が固く縮んでしまうでしょ
茶色くガサガサした落ち葉のように
でも こんな人もいるでしょ
不思議だね 一緒にいると
蛍たちの光が集まったみたいに
心にギュって火が灯る
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一緒にいると、心が疲れてしまう人がいます。
心の栄養を奪っていくようなタイプの人で、一緒にいると、開いていた心も閉じてしまい、落ち葉のようにガサガサになってしまいます。
この比喩が、ものすごく的確ですよね。
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一方で、元気にしてくれる人がいます。
一緒にいると、暗闇の中に光が灯るように、勇気が湧いてくる。蛍のように心に火を灯してくれる。
しかも、その火は、thick「ギュッと」集まった光になる。
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とてもシンプルな詩なのに、的確な比喩の力によって、身の回りの様々な人をイメージすることができますよね。
自分のなかでモヤモヤしていたこと、言いたいことがあったときに、大切な友人は、それらをすぐに理解しすべてを言いあててくれるときがあります。
「そうそう!」と激しく同意しながら、「話して良かった。よし頑張ろう!」と、思えたりするのです。
まさに、「詩は友人なり」ということの証ですね。
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今回の訳のポイント
今回最も悩んだ箇所で、最終的にどちらもオノマトペ(擬態語・擬音語)を使うことにしました。dried「ガサガサ」とthick「ギュッと」の箇所です。
「詩は友人なり」というトーンを出すため、タイトルも、some people「こういう人いるでしょ」と語りかけるような口調にしましたが、dried「乾燥した」thick「凝集した」というような辞書的な訳語を使わずにどう訳そうか悩みました。
嫌な人と話してゲンナリしたときのこと、友人に相談をして元気になったときのこと、それらを念ずるようにイメージしていたら、マンガの効果音のように、二つのオノマトペが心に聞こえてきました!
少ない言葉で多くを語る詩においても、オノマトペは効果的だと改めて思います。オノマトペって、五感に直接届くからなんですよね。