第12回 孤独を感じるときに思い出す詩
孤独を感じるのはどんな時でしょうか。
ものごとを人と分かち合うことが容易な時代に、それでも、ひとりで抱え込んでしまう悲しみや苦しみがあります。
そうやって、ひとり気分が晴れないときに、受信する他愛ないメッセージや交わす会話。苦しくて悲しくて、喜びに飢えているとき、ほんの一滴こぼれた笑いが、じんわりと心にしみわたる。
それほどに微笑みに焦がれ、心が乾いてしまうときが、人生にあります。そんな、心がギュッと締めつけられる瞬間に思い出す詩を紹介します。
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Solitude
By Ella Wheeler Wilcox
Laugh, and the world laughs with you;
Weep, and you weep alone;
For the sad old earth must borrow its mirth,
But has trouble enough of its own.
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ひとり
エラ・ウィーラー・ウィルコクス
笑ってごらん 世界が一緒に笑ってくれるから
泣いてごらん そう 泣くときはひとり
この星は 哀しみに満ちている だから喜びは借りてくる
哀しみは 誰もが抱えすぎているものだから
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この詩は、誤解を生むことが多いようです。思わず次のように解釈してしまいそうになります。「笑えば周りの人も幸せな気持ちになり集まってくる、泣いてばかりいては人は集まって来ないよ」と。
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しかし、3~4行目に、「笑うときは皆が一緒に笑い、泣くときはひとり」な本当の理由があります。
earth「世界」、つまり「世の中の人たち」はそれぞれに哀しみを抱えていて、自分の哀しみに対処するので精一杯だと。
だから、他人の哀しみに付き合う暇もない。そして、mirth「喜び」は他人から借りてこないといけないほどに足りていないのだと。
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こうして考えてみると、冒頭の2行が改めて理解できます。ひとが一緒に笑ってくれるのは、あなたの笑いの快活さに魅かれているのでなく、自分の中に喜びが見いだせないので、誰かのなかに喜びを探し求めるからだと。
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では、「泣くときはひとり」なのはなぜでしょうか。
それぞれに抱えた哀しみは、様々な紆余曲折があって、ひと言で簡単には説明できません。理解してもらおうとすると、エネルギーも要る。他人にはなかなか理解されず、もどかしく歯がゆい、悔しい気持ち。いつしか、分かってもらうことを諦めて、泣くときはひとり泣くことになるのです。
ひとには説明し難い、それぞれに抱えた哀しみ。トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』の冒頭の一節に通じますね。
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Все счастливые семьи похожи друг на друга, каждая несчастливая семья несчастлива по-своему.
「幸せな家庭はどれも似通っているが、不幸な家庭はそれぞれに不幸の形がある」
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今回の訳のポイント
冒頭のearthを「地球」とそのまま訳し、スケールの大きさを表現しましたが、意味合いとしては、「世の中の人たち」が近くなります。
フランス語でもle mondeは「世界」を、tout le mondeとなると「全世界」や「皆」を意味しますが、似た感覚ですね。
この詩自体は、「〇〇してごらん」というフレーズが続くもっと長い詩なのですが、冒頭の4行が、そのインパクトの大きさゆえ、引用されることが多いです。
心に深く突き刺さる言葉、まさに詩のパワーですね。