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第10回 一日一日の大切さを噛みしめるときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

まだ見たことのない「明日」を思って、わたしたちは希望をもったり、夢を膨らませたりします。

しかし、現実には、すべきことに追われただけの一日や、重い腰が上がらずに時間をただ消費してしまったような一日もあります。

そんな一日の大切さを噛みしめるときに、追い打ちをかけるように、弱い心をひっぱたいてくれる詩があります。

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To-morrow
By Percy Bysshe Shelley

Where art thou, beloved To-morrow?
When young and old, and strong and weak,
Rich and poor, through joy and sorrow,
Thy sweet smiles we ever seek,–
In thy place–ah! well-a-day!
We find the thing we fled–To-day.

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「明日」
パーシー・ビッシュ・シェリー

君はどこにいる? いとしい「明日」よ
若きときも老いたるときも 病めるときも健やかなるときも
富めるときも貧しいときも 喜びのときも悲しみのときも
君のやさしい微笑みを ひとは探し求めるのだけど–
君ではなく ああ悲しいかな
見つかるのは いつも 自分の捨て去った「今日」なのだ!

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まだ見ぬ明日は可能性に満ちています。若いときは、こんなことをしてみたい、あんなことをしてみたいと未来を夢見ます。

年を重ねれば重ねたで、うまくいかないことが続くと、せめて明日は良い一日になればいいなと願ったりします。身体の調子が悪ければ、早く良くなりたいと願い、健康なときはまだまだ元気に過ごせたらと思います。

お金があれば、その豊かさをもっと味わいたいし、お金がなければ、いつかもっと自由にお金が使えたらと願います。楽しいときはいつまでも続いてほしいし、悲しいときはいつか明るい兆しが見えたらと望みます。

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こうして、「明日」を求めて、わたしたちは懸命に生きるのですが、確実なものはひとつ。「今日」が終わってしまったということ。未だ来ぬ「未来」ではなく、今終えた「今日」だけが、確かなのだと。

心にズシンと来ますね。

大切にするとはどういうことなのか。心の中で大切に思うだけでなく、その人のために何ができたのか。今日過ごした時間が、今日交わした言葉が、明日のふたりの関係をつくる。それと同じように、「いとしい明日」のために、今日を大切にしようと思い出させてくれます。

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作者のシェリーは、理想と情熱に生きた浪漫の詩人と言われます。その波瀾万丈の人生の只中で、この詩を書いた翌年にイタリア旅行中に海難事故により、30歳で命を落としてしまいました。

誰よりも、詩の可能性を擁護した彼の言葉に、「人間は楽器である。自らの内面と外面とに湧き上がる印象を奏でる。それは、絶えず変化する風に音を響かせる風琴のようなものなのだ」というのがあります。

詩は、人間という楽器が奏でるメロディーで、この世に吹く風が、または心に吹く風が、私たちという琴の弦を鳴らしているのだと。それぞれに、世の中のありさまや、自らの心の動きを受け止めて、音を鳴らすと。

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これは、ひとり遊ぶ小さな赤ん坊が、言葉にならない声をあげて楽しんでいる様子に似ています。

本人の心の中に湧いた歓びか、外界に反応しているのか。自分の心に響いた感情を確かめるかのように、同じ節を繰り返し鼻歌のようにつぶやいたりするのです。

自分にも理解できないことを言葉で表現する、赤ん坊もまた「詩人」な気がします!

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今回の訳のポイント

この詩が書かれたのは、ちょうど200年ほど前の1821年で、古い英語が使われています。例えば、thou (=you)、thy (=your)、art (=are)などです。

You (=thou)は、古めかしく「汝」などと訳されることもありますが、例えば、シェリーの破天荒な人生を反映して、「おまえ」と訳すこともできます。

日本語の二人称の豊富さが言われることも多いですが、詩全体の印象を左右する大きな要素ですよね。

若いロマンチックな詩人の少し切ない気持ちを表現するとなると、やはり「君」を選びたくなりますね。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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