第9回 永遠を願うときに思い出す詩
人生には、特別な瞬間があります。この時間は永遠には続かない、そう分かっているからこそ、終わらないでほしいと願う、そんな瞬間です。
誰かとの出会いや別れ、過ごす時間の大切さを感じるからこそ、いつまでも失いたくないと願う。大切なものを「永遠」として留めておきたい。そんな気持ちになったときに思い出す詩があります。
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Tonight
By Sara Teasdale
The moon is a curving flower of gold,
The sky is still and blue;
The moon was made for the sky to hold,
And I for you;
The moon is a flower without a stem,
The sky is luminous;
Eternity was made for them,
To-night for us.
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この夜は
サラ・ティーズデイル
月は、黄金の花環
空は、静止した青
月は、空が抱きしめるためにある
わたしは、あなたが抱きしめるためにある
月は、茎のない花
空は、眩い煌めき
永遠は、月と空のためにある
この夜は、あなたとわたしのためにある
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月と空。そのペアを、ふたりの人間になぞらえて描いた、短くも美しい詩ですね。想い合うふたりが、自分たちだけの時間を過ごす喜びを感じ取ることができます。
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月と空。このシンボルが、永遠を表現するために使われています。実際には、宇宙は膨張を続け、星は絶え間なく生滅を繰り返していますが、永遠性のメタファーとしては十分ですよね。
天体現象として、およそ永遠に続くだろう、空を回る月の運行。静止したように見える、安定の象徴としての空。このシンボルを使って、右へ左へ落ち着かない自分を抱きしめてくれるような存在、その包容力を感じさせます。
大切な人との関係性に思いを巡らせてしまいますね。自分は駆け寄り抱きしめられる月なのか、受け止めて抱きしめる空なのか。
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「永遠を願うとき」を、もう少し広い意味で考えてみましょう。個人的には、人との出会いや別れ、生死といった場面にあって、変わらぬものを願うときと感じます。
例えば、めぐり逢いの奇跡を、現実としてずっと留めておきたいと思う幸せな瞬間があります。一方で、病院のベッドの横に腰を下ろし、目の前の人との残された時間の少なさ、その痛みを噛みしめる瞬間もあります。
素晴らしい時間がこれから始まるという予感、その一分一秒を味わう幸福、または、その終わりが迫っているという焦燥。これらの気持ちに震えるとき、「もし永遠というものがあるのなら!」と、思わず願ってしまうのです。
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今回の訳のポイント
ミニマリスト的な、簡潔で均整のとれた詩では、省略の技法が多く使われます。
この詩では、”The moon was made for the sky to hold”に呼応して、”And I (was made) for you”となり、また、”Eternity was made for them”に対しては、”To-night (was made) for us.”となっています。
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この箇所の日本語訳も悩みましたが、ポイントは「結果の状態」を表現することです。例えば、過去の動作である「扉を開けた」と、その結果としての現在の状態を表す「扉は開いている」の2文は同じことを言っていることになります。
ここでは、「この夜は、わたしたちのために作られた」=「この夜は、わたしたちのためにある」としてみました。「作られた」よりも「ある」とすることで、「永遠」を今噛みしめているという感慨を表現したかったのです。