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第4回 ピクニックしたくなったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

春の風が吹いて、草花が匂い立つような陽気が訪れると、ピクニックがしたくなりませんか。

原っぱや森へでかけ、広げたブランケットに寝転んでサンドイッチを食べたり、詩を読んだり。ヨーロッパの絵画のようなピクニック、わたしは大好きです。

草木の緑の陰影、鳥や風のさえずり、空と雲のコントラスト。どうですか。イメージが浮かんできましたか。外へ出かけられなくても、目と心の栄養に、ピクニックの詩を読んでみましょう!

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Come, Rest Awhile
By Lucy Maud Montgomery

Come, rest awhile, and let us idly stray
In glimmering valleys, cool and far away.

Come from the greedy mart, the troubled street,
And listen to the music, faint and sweet,
That echoes ever to a listening ear,
Unheard by those who will not pause to hear

The wayward chimes of memory’s pensive bells,
Wind-blown o’er misty hills and curtained dells.

One step aside and dewy buds unclose
The sweetness of the violet and the rose;

Song and romance still linger in the green,
Emblossomed ways by you so seldom seen,
And near at hand, would you but see them, lie
All lovely things beloved in days gone by.

You have forgotten what it is to smile
In your too busy life — come, rest awhile.

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さあ ちょっと休もうよ
ルーシー・モード・モンゴメリ

さあ ちょっと休もうよ ぶらぶら出かけよう
遠くの涼し気な谷間を そう 光溢れる谷間を

欲に溢れる市場や 雑踏の街並み抜けて
かすかな甘い調べを聞きに行こう

聞く耳あれば そのこだまは豊かに響くよ
立ち止まって耳をすましてみないといけないよ

追憶の奏でる気まぐれな鐘の音
霧に煙る丘 雲が立ちこめる谷に 吹く風の音

路傍にはほら 露に濡れた花が開こうとしている
ほら気づくでしょ 薔薇や菫の芳しさに

あの歌や胸のときめきが 草木の間に
花咲く道に息づいている 気づかなかったみたいだね

すぐそこにもあるよ 見てごらん
過ぎ去った日々の 素敵な忘れものが

忘れてしまったみたいだね 微笑むってどんなことか
毎日がとても忙しくて だから ちょっと休もうよ

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ルーシー・モード・モンゴメリは、『赤毛のアン』の作者で、ロマンチックな詩もたくさん残しています。並べられていることばを見るだけで、水彩画の中に入ったような気分にしてくれます。

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こうしたロマンチックな詩の秘密は、形容詞にあります。とにかく、やさしくてやわらかい形容詞がパレードをなして並んでゆく。この詩で使われている形容詞を眺めてみると、

・glimmering valleys, cool and far away
「はるか遠くの涼し気で光溢れる谷間」
・the greedy mart, the troubled street「貪欲な市場、せわしない街」
・the music, faint and sweet「かすかな甘い調べ」
・the wayward chimes「気まぐれな鐘の音」
・memory’s pensive bells「思い出の侘しい鐘の音」
・misty hills「霧に煙る丘」
・curtained dells「雲が立ちこめる谷」
・dewy buds「露に濡れた花の蕾」
・emblossomed ways「花咲く道」
・all lovely things beloved in days gone by
「過ぎ去った日々の素敵なもの」

うーん、これはバレンタインデー前のスイーツ売場以上の甘さですね!このようにして、素敵な形容詞が並ぶロマンチックな詩を何篇か読むだけで、甘〜い形容詞が無駄に身につくという効果があります。

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そして、ロマンチックな詩のもうひとつの特徴が、「追憶」を歌うことです。

「追憶」という日本語もとても素敵ですが、ポルトガル語で言うところのsausade「サウダーヂ」が一番良くこの感情を表せると思います。「郷愁」「憧憬」といった、甘さと苦さの混じったビタースイートな感情ですね。

ロマンチックな詩では、甘い形容詞を重ねた後に、ちょっぴり苦いことばで締めくくるというのが、何より定番の展開。この詩でも、”all lovely things beloved in days gone by”「過ぎ去った日々の素敵な忘れもの」という、キュンとするキーワードが最後に登場していますね。

ほろ苦い恋の思い出。ほろ苦い青春の後悔。聞いただけで恥ずかしくなるような甘酸っぱいイメージを、詩の結論に置くという非常にズルいテクニックです。

「優しく朗らかな人が一瞬見せる物憂げな表情」のような破壊力を持っていますね。そうしているうちに、ロマンチックな詩の魅力に、恋に落ちることになるのです。

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今回の訳のポイント

詩は、リズムや韻を整えるために、しばしば自由な語順で書かれます。

“In glimmering valleys, cool and far away.”の”cool and far away”は”let us idly strayと韻を踏むために、また”And listen to the music, faint and sweet,”では、”faint and sweet”が”the troubled street”と韻を踏むために、文末に置かれています。重ねられた形容詞を、日本語のリズムに落とし込むのが難しいところです。

最後の”smile”と”while”という韻は定番ですが、韻によって生まれるリズムは、身体に沁み込むほどに心地よく感じられる。日本人にとっての五七五のリズムと同じですね。

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記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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