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Caveat Emptor

the apple of my eye

通訳・翻訳者リレーブログ

caveat emptor という言葉をお聞きになったことがあるだろうか。法律用語で、Let the buyer beware 、「買主をして注意せしめよ」ということになる。ロンドンでイギリスの契約法を学んだ時、ほとんど真っ先に習うことの1つがこれだった。
売買契約を締結するとき、売買されるモノの品質や、所有権(難しく言うと「権原」)が本当にその売主にあるのかどうかは、契約条件にそれについて保証する条項がない限り、買主が自ら確認しなければならず、そこに問題(難しく言うと、「瑕疵」)があれば、売主側の詐欺でなければ、そのリスクは買主の負担ですよ、という考え方である。
なぜ、こんな話から始めたかというと、少し前に、マンションやホテルの建物の設計書の一部が偽造されていたため、建物の耐震強度が法定基準を大きく下回るものになっていたという事実が明るみに出て大騒ぎとなったから。マンションを購入した人は、まさか設計書の段階でそのような不正が行われているとは夢にも思わないわけだが、たまたま建築業界に知人がいて聞くと、買う側にも責任の一部はある、という。たとえば似たような立地、物件全体の規模、住戸の広さ、機能でありながら、他の物件よりもはるかに安い価格である場合、どこでその価格の差ができているのか、当然確認すべきである、というのだ。そこで、caveat emptorが頭に浮かんだ。
それにしても不正を行った建築士の発言は恐ろしい。「忙しくて」「コスト削減のプレッシャーが」「検査で指摘されていれば、その後はやらなかっただろう」云々。そこに仕事を請け負うプロとしての意識はかけらも見られない。
私はよく契約書などの翻訳をさせていただくが、その出来・不出来で人命に関わる事態はなかなかないとしても、間違った翻訳をすればそれが会社同士の紛争に発展する可能性はある。また交渉途中で事業内容や契約の事実が漏れでもしたら、株価や事業そのものにも影響が出る可能性もある。そういった責任感や緊張感だけは失わずに仕事に取り組むのが、お金をいただいて仕事を請け負うプロの最低限のモラルではないだろうか。caveat emptor とはまったく別の次元のことだと認識している。

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the apple of my eye

日本・米国にて商社勤務後、英国滞在中に翻訳者としての活動を開始。現在は、在宅翻訳者として多忙な日々を送る傍ら、出版翻訳コンテスト選定業務も手がけている。子育てにも奮闘中!

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