Life is not easy.
翻訳作業をしていると、ときに意外な一語で考え込むことがある。たとえば、
At that time life was not so easy as it is now.
この文章をどのように訳すか、考えてみてほしい。
英語としては難しい構文ではなく、珍しい単語や熟語も使われていない。
問題は、life 。
え、life なんて中学生でも知っている単語だって?
その通り。
ところが、この単語をどんな日本語に置き換えるかで、けっこう苦しむ。
「当時、生活は今ほど楽ではなかった」
「当時、人生は今ほど楽ではなかった」
「生活」とすると、朝起きて夜眠る、毎日の生活のことになり、「生活が楽ではない」といえば、金銭的に大変だ、という意味になる。「人生」とすると、生まれてから死ぬまでの一生、という話になり、「楽ではない人生」には、金銭的な苦しさも含まれるだろうが病気や離別などの苦しさも含まれるだろう。生活と人生、似ているようで、違う。
「生きること」としてみてはどうだろう。これも日本語として「生活」や「人生」とは若干ニュアンスが違いながら、上記の原文に当てはめてみて、おかしくはない。
しかし、上記の1文だけでは、どの訳語を当てはめればいいのか分からない。前後の文脈を読めば分かることもあるが、それでも分からない、どちらにでも解釈できる場合もあるだろう。
life という単語、このほかにもたくさんの意味がある。
life sentence というと、「終身刑」の意味。
The Killer Gets Life なんていう新聞の見出しがあれば、「殺人犯に終身刑判決」と訳さなければならない。
ところが Get a life! という会話文があったとしたら、「いい加減にしろ!」などと訳したい。いつまでもつまらないことをやっている相手への、喝である。
That’s life! なら「しょうがないな!」ってところか。
expected life が人間の場合は「平均寿命/余命」、モノの場合は「期待耐用年数」。
charmed life は「不死身」
the other life で「あの世」
life policy は、生命保険証書のこと。
She is full of life.とあれば、「彼女はとても元気な人だ」
life size で「等身大」。
ね、life is not so easyでしょ。