春一番
少しずつだが暖かい日が増えてきている。
先週は、東京にも春一番が吹いた。
たまたま外に出ていたので、頬に当たる生温かい突風に「これは春一番かな」と、一緒にいた友人と話していたのだ。夕方のニュースで「春一番が吹きました」と聞いて、「おお、体感したなぁ」と妙に嬉しかった。
関西出身なので「生駒おろし」とか「六甲おろし」という風で育っており、東京に住むようになって最初の実感は、ぐるりと見回して山が目に入らないことと、冬の風が強くて冷たいというものだった。目の前に山がないのに風が強い、なんでや〜〜?
東京に来て得たもう1つの実感は、やっぱり地震の多さ。最近では体感で震度を当てられるようになってしまった。NHKの速報で「東京23区内は震度3」と言われても、時には「ううん、この辺りは震度4だったわよ!」と1人で TV の画面に向かって反論し、後で「○○区では震度4でした」と修正が入ると、「そーでしょ、そーでしょ、」と妙にほくそえんだりしている。ほんとはかなり怖くてビビっているくせに。
まあ、地震の体感より、春一番の体感ははるかに嬉しい。
「春一番が吹いたよ」と、ロンドンに住む知人にメールで知らせる。
英国には「春一番」という風は吹かないので、the first gale of the spring と表現するのだけれど、「それがどうして春の風だって分かるの? 冬の風の続きかもしれないのに」と訊かれてしまう。
「風の吹いてくる方角が違うもので、気象庁が気象学的に観測するのです」とご説明申し上げると、理論で説明されるのが大好きな欧米人、ものすごく喜んでくれた。
ついでに、「三寒四温」も教えてあげる。
3 days cold, 4 days warm と。
それから「啓蟄」も。
the day for worms and frogs to come out of hibernation
考えてみると、日本には季節の変化や特徴を表す表現がたくさんある。
春分・秋分、立春・立冬、夏至・冬至などは、二十四節気といって古い時代の中国からきたものらしいが、その他にも節分、彼岸、入梅(梅雨入り)、土用、八十八夜、二百十日など、日本の風土と生活の中から生まれた暦の日があって、行事もある。
「英語にはそういうのある?」と、件の知人に尋ねてみたが「う〜ん、思い出せない。天気の話ならあるかもしれないけど」とのこと。
あてにならない英国人に任せずに自分で思い出そうとしたけど、やっぱりあまり思いつかない。英国で季節の行事って、Guy Fawkes Day とクリスマス、ニューイヤーにイースターくらいしかなくて、春夏秋冬の節目という感じじゃない。アメリカの Groundhog Day というのは啓蟄に似ているか。ついでに外国の祝日をざっと調べてみると、欧米諸国はだいたい、その国の歴史かキリスト教に関連する日を祝日にしている。アジア諸国もその国の主な宗教的行事に合わせてある。
じゃあ、春分・秋分を祝日としてお休みにしている日本って、季節の変化を大事に思う、素晴らしい国かもしれない。ふん、どおりで日本の「衣替え」を説明しても、英・米国人には理解されなかったわけだ。「なぜ冬と夏の服を入れ替えるの? 家が狭いから?」なんて抜かしやがった。はいはい、えらい悪うございましたな。確かに家は狭いけど、季節の変わり目を感じ取り、それを日々の生活上でも表現する、高度な文化を持つ国民なんだってば。英国人みたいに5月でもウールのコートを着込んだり、米国人みたいに年がら年じゅう半袖の T シャツと短パンで過ごしたりはしないのよ!
春だ春だと喜んでおきながら、実はお定まりの hay fever でイライラしているかも?