天女巻き
相も変わらず厳しいスケジュールの合間を縫って、髪を切りに行った。
出かける前、その時点で取り組んでいた仕事の原稿を持って行こうかどうしようか迷う。
そもそも、活字中毒というか、何か読むものがないと電車でも整骨院でも美容室でも苦痛なので、待合室に何かあると分かっていても文庫本の1冊くらいは持って行く。
でもせっかくシャンプーしてもらったりしてリラックスしに行くのに、原稿を読んでいてもしょうがないかと思い直し、持たずに出発。
美容室は混んでいて、席についてからシャンプーしてもらうまで少し待たされる。
と、もうイライラしてきちゃうのである。しょうがないので、窓から外を眺めて向かいのビルに入居しているお店の看板などを読んだり(ただ眺めるのではなく、「読む」)。
シャンプーの後、ようやく雑誌を貸してもらえた。ホッ。
とりあえず、松嶋菜々子さんが表紙のじゃなくて、黒田知永子さん表紙のを。だって松嶋さんの表紙の見出しが「モデルヒット服、かくれヒット服」で、明らかに20代女性向き。ハハハ。
普段は自分で女性誌を購入することは殆どないので、いつも新鮮な目で見てしまう。
それにしてもこの雑誌のテーマって、割と「痛い」感じ。
「40代でもキレイと言われたい!」「人から『幸せそう』と言われなければ!」というメッセージがこれでもか、これでもか、とページの中から連射されるので、数ページもめくると疲れてくる。
ちょっと太めでもモテる女性「もてぷよ」になれと励まし、Tシャツは「女っぷりを上げる」ために選べと指南し、あごのたるみはプロに修正してもらえと叱咤。
本人の見栄えだけではない。
古くなった家は「老けた部屋を若返らせ」なければならず、狭い家でも「ウィンドウ・ガーデン」を作って、オシャレなライフスタイルも演出しなければならないそうだ。
だんだん辛くなってくる。
女性誌全体でそうだけど、きっと使われている言葉が怖いのだ。
「○○は必須アイテム!」「〜は絶対!」「××に陥らないために」「今年の夏、これだけは外せない!」「いま必要なホニャララ」などなど、それを持っていないと/そういうことをしたら、あなたはダメな人、と言わんばかりの言葉遣いが並ぶのだもの。
ある意味分かりやすいから、マニュアル的効果として安心を呼ぶのだろうが。
巧妙というか親切というか。
しかし、ファッション雑誌の面白いところも、やっぱり言葉。それも造語。
限られた枚数の服をローテーションさせる「着まわし」なんて言葉はもうすっかり当たり前。ちょっと前はおしゃれだと思われている地区に住む人を「シロガネーゼ」「アシヤレーヌ」「ニコタマダム」などと呼ぶのが流行っていた。
お洋服もシーンに合わせて「キレイめ」とか「きちんと感」「〜カジ」とか、細かいニュアンスで分類。
「モテ服」「モテ系」と、最近は「モテ」ることが良いらしい。
最近は男性誌のほうで「ちょいワル」。
で、今回の発見は「天女巻き」。
ストールを肩からやや落としてかけ、後ろから前に両腕をクルっと巻いて、両脇からストールの端を背中の方に廻す。分かります?
そうそう、日本の昔話「羽衣天女」の絵本で、天女の衣がこんな風だった。竜宮城の乙姫さまも。最近問題になっている高松塚古墳の美女たちもそうだっけ?
天女巻きかぁ。
ご年配の人が聞いたら「昔はマチコ巻きっていうのがあったけどね」なんて言いそうだ。