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ロンドンの本屋さん

the apple of my eye

通訳・翻訳者リレーブログ

インターネットが普及して、本の入手がとても楽になった。
著者や題名で検索したり、ただブラウズして「これは!」と思うものがあれば、クリック何回かで購入完了。お陰で家の中にはそこここに、読んでもらうのを待っている本が常に何冊も「積読」状態だ。クレジットカード決済にしているので翌月の請求書を見て飛び上がったりもする。
とはいっても、バーチャルでないお店(bricks-and-mortar)も好きなのだ。特にお目当ての書籍はなくても、何となくブラブラして、気になるタイトルを手にとってパラパラとページをめくってみる。あっちをふらふら、こっちをふらふら。あっという間に1時間くらい経ってしまう。
ロンドンで暮らしていた頃も書店にはよくお世話になった。
書店街はチャリング・クロス周辺が有名なのだけれど、一番のお気に入りはピカデリーにあるハッチャーズ(Hatchards, 187 Piccadilly, London W1J 9LE)。そんなに巨大な店ではない。なにしろ創業が1797年、ロンドン一古い書店だから。キプリングやワイルド、バイロン卿などの作家たちもご贔屓にしていたらしいし、みなさんのご想像通り、王室御用達でもある。木造のどっしりとした正面入口がなんともいえない風格で、店内のデザインもとても趣がある。店員は非常によく訓練されており、質問したり探し物をお願いすると、その商品知識と丁寧な応対に感激する。
英国法の授業で使う教科書や参考書を探しに行ったのは、チャンセリー・レーンの近く、王立裁判所(The Royal Courts of Justice)の裏にある、ワイルディ・アンド・サンズ(Wildy & Sons, Lincoln’s Inn Archway, Carey Street, London. WC2A 2JD)。法廷弁護士を養成する法学院(Inns of Court)の1つ、リンカーンズ・インの一角に店を構える。こちらも古くて、創業は1830年。弁護士や判事が使う専門書から学生用の教科書、中古本まで扱っている。新しい教科書をレジにもって行ったら「これなら同じのが中古で入ってるよ」と教えてくれる親切さ。教科書って言ったって厚さ5センチ以上はあるデカイ本で、決してお安くはないから中古は有り難かった。
さらに、英国という国について知りたい時は、ハイ・ホボーンのザ・ステーショネリー・オフィス・ブックショップ (The Stationery Office Bookshop, 49 High Holborn, London WC1V 6HB) へ行ってみることをお勧めしたい。 TSOは、以前は Her Majesty’s Stationery Office(HMSO) といって、議会や官公庁が発行する文書を印刷するのが仕事だった。1996年に民営化されてTSOとなり、HMSOの機能は今は内閣府 (Cabinet Office) の一部となって The Office of Public Sector Information (OPSI) と呼ばれ、王室の著作権管理や政府の情報管理を行っている。省庁が発行した公的文書や、法律の条文なども手に入る。
こういった書店も、今ではオンライン書店を運営していて、世界中どこにいても、その店から本を探して購入することができてしまう。便利だな。でもここ何年かロンドンに出向いていない身としては、ハッチャーズの地下フロアに降りる階段の、ぐるりとカーブした手すりや、ワイルディの傾いた木の床、低い天井も懐かしいのだ。なんかこう、書店の中に流れる時間や空気って、独特だと思うので。
映画『ユー・ガット・メール』でメグ・ライアン演じるヒロインの母の代から経営していたNYの児童書店が、トム・ハンクス一族経営の大型書店の進出によって閉店に追い込まれる。ロンドンには上に挙げた以外でもダンス専門、テキスタイル専門、美術専門、骨董品専門、料理本専門、ファッション専門、建築専門など、個性豊かな書店がたくさんあった。あ、映画『ノッティングヒルの恋人』ではヒュー・グラント演じる冴えない男が旅行書専門の書店を経営していたっけ。毎月赤字だってぼやいていたけれど。でもほんと、あんな感じの小さな、でも面白い本屋さんたちがあちこちにあるのだ。行ったことがある本屋さんが1つでも閉店になっていたら、寂しいなぁ。

ちょっと今、ロンドンに行きたくなっている。

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the apple of my eye

日本・米国にて商社勤務後、英国滞在中に翻訳者としての活動を開始。現在は、在宅翻訳者として多忙な日々を送る傍ら、出版翻訳コンテスト選定業務も手がけている。子育てにも奮闘中!

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