BLOG&NEWS

つなわたりな生活 その3

the apple of my eye

通訳・翻訳者リレーブログ

ところで、たまにオンサイトに出ることのもう1つのリスクは、在宅で頼まれる仕事の方をどう処理するか、にもある。「他の仕事がありますので!」とお断りすれば良いのだが、週末を挟んで6日間も他のすべての仕事をお断りするのは、普段在宅ベースでお世話になっているクライアントさんにご迷惑になるかもしれない。
基本的には first-in, first-out でお仕事を受けさせていただくので、今回も6日間のうち2件ほどはお断りせざるを得なかった。それでも、朝から夕方までオンサイトで仕事をし、急いで帰宅して息子と夕食、彼が寝た後に日付が変わるまで仕事をして、また翌朝オンサイトの仕事に出る、とギリギリの努力はしたつもりである。週末も完全に返上した。要は、自分が納得できるラインまでやりたいだけなのかもしれないが、努力してどうしても無理なら諦めがつくが、後悔はしたくないのだ。もちろん、無理をして仕事の質が下がっては本末転倒だし、今回も6日間という期限が分かっていたので頑張ることもできた。永遠にノンストップでギリギリまで仕事をするのは無理だし得策でもない。そこのところのバランスが難しいわけだ。まだ小さい子どもなんかがいると、余計に物事が予定通りになど進まないし。
またそういうときに限って、来る仕事がとてもチャレンジングだったりもする。オンサイトが決まる前にお受けした仕事で、以前に翻訳をしたものがあって今回は改訂版。変更があった場所だけを翻訳するので、それほどハードではないはずだった。「後からもう少し来ますが、とりあえず」と送ってきたのが数枚だったので、「後から少し」も同程度の分量かと思ったのが間違いの始まり。オンサイトの仕事が始まる木曜日の前に「後から」が来るはずだったのに、原稿が遅れてオンサイトが始まってからになったのが次の間違い。「後から」の分量が仕上がりで30枚近いものだったのが3つ目の間違い。中身を見て、最初の単なる「変更部分だけ」という性質のものではなく、完全に1からの翻訳に近い「追加」箇所だったことが4つ目の間違い。5つ目の間違いは「出来たところまで翌日に納品して欲しい」という要望が付いてきたこと。6つめの間違いは、まあそもそもの間違いだったが、やや専門領域ズレの内容だったこと。7つ目の間違いは(段々、数え上げるのが面倒になってくる)、原文の英語がかなり質の悪いものだったこと。そして8つ目間違いは、いただいた原稿のファイルがなぜか非常に重く、PC上で何度もフリーズすること。使用しているPCが悪いのかと思って、別のPCで動かしてみたが状態は同じ。9つ目の間違いは、この仕事をオンサイトが始まるまでに終わるものと算段していたために、もう1件の仕事を請けてしまっていたこと。
さて、これだけ「間違い」が重なると、しかもオンサイトの仕事に入っていて日中の時間がまったく使えない状態だと、大ピンチである。よっぽど、クライアントさんに頭を下げて、この仕事はできないと申し上げようかと悩んだ。が、そこでムクムクと頭をもたげてきたのが、「なに、やってみせるさ!」という意地。カレンダーに、木曜の夜=仕事A7枚、金曜の夜=仕事A5枚、土曜日=仕事A15枚、日曜日=仕事B15枚、月曜日の夜=仕事B5枚、と仕上げ枚数予定を書き込み、猛然と取り掛かったのが木曜の夜9時ごろ。
動かないファイルについては金曜日にクライアントさんに連絡し、別の形式のファイルを送ってもらって問題解消。これのおかげで木曜日の予定枚数は狂ってしまったが、土曜日にそれを挽回、日曜日はその勢いに乗って、月曜日分の仕事も終えることができて仕事AもBも無事に月曜日の朝に納品! この間、睡眠時間はかなり短し。いつもはできない右の頬と額に吹き出物1つずつ。
でもこれで、残りの月曜・火曜のオンサイト、在宅の仕事を気にせずに乗り切ることができそうだ。……と思っていた月曜日、帰宅途中の電車の中で携帯電話が鳴る。
「はい、大丈夫ですよ、明日までですね!」と答えている私がいた。

Written by

記事を書いた人

the apple of my eye

日本・米国にて商社勤務後、英国滞在中に翻訳者としての活動を開始。現在は、在宅翻訳者として多忙な日々を送る傍ら、出版翻訳コンテスト選定業務も手がけている。子育てにも奮闘中!

END