BLOG&NEWS

サラブレッド

the apple of my eye

通訳・翻訳者リレーブログ

中居君である。
「レディース・アンド・ジェントルメン!」とシャンパンを開け、
「グレート・サラブレーッド!」と叫んでいる。
このCMを見るたびに、「さらぶれっど」じゃないんだけど、と思ってしまう。わざと、なのだろう、きっと。でも気になる。
ご存知「サラブレッド」は、“thoroughbred”で、「徹底して」+「交配した」という意味から生まれた名前と言われる。サラブレッドは競争馬にするという目的だけで英国の在来種にアラブ馬をかけ合わせて作り上げた人工的な種類の馬で、サラブレッドと呼ばれるためには厳しい血統上の規則がある。だから現首相のような生まれの人を「政界のサラブレッド」などと言ったりするのだ。
ずっと昔、駆け出し翻訳者の頃、アラブ首長国連邦で開催される競馬レースの資料の日本語訳を頼まれたことがある。オグリキャップ人気で日本に競馬ブームが起こった後だったが、残念ながら私は競馬にまったく関心がなかった。今もないが。しかし仕事となれば、なんとか調べて取り組むしかない。当時はまだインターネットも普及し始めたばかりの頃で、今ほど簡単に欲しい資料も見つからず、四苦八苦した記憶がある。
一番引っかかったのは、馬齢に関する点だった。
合わないのだ。出馬する馬の年齢と、その大会の出馬資格の制限が。
調べてみると、当時の日本の競走馬の年齢は数え年で数えており、したがって生まれてすぐの馬は1歳としていたのだ。国際的には0歳だ。日本のルールは2001年に改正されて、国際標準に合わせたそうだが、面白いのはその国際標準も完全には統一されておらず、誕生日が何月何日であろうと、北半球の馬は1月1日になると1歳年を取ったことになるが、南半球ではそれが7月1日だったり8月1日だったりするらしい。
英語の競馬用語も色々あって面白かった。
juvenile は性別に関係なく2歳馬のこと。filly は4歳までの雌の馬。colt は4歳までの雄の馬だが去勢されていないものに限定される。去勢するのは気性の荒さを直すためだそうだ。去勢された馬は英語で gelding というらしい。日本語では「せん馬」だそうだ。去勢されると当然、子孫は作れなくなる。種馬 stud になれない。種馬には別の言い方で entire だとか stallion ていうのもある。entire って、そうでない馬たちに対してちょっと失礼な表現じゃないかな。
いや、競馬用語で失礼なのはもっとある。
血統の記録簿を stud book という。父親こそが重要であって、お母さん馬の方はどうでもいいのか。競馬の世界にも男尊女卑、封建主義、一夫多妻が蔓延しているようだ。実際、サラブレッドの血統を語る場合は、父系 = サイアーライン (sire line) ということが言われる。sire という言葉自体、senior からきたものらしい。始祖とか高位の人という意味があるとか。なんだかとても尊ばれた感じ。現在のサラブレッドの父系を遡ると、すべてたったの3頭の、18世紀のイギリスで活躍した名馬のいずれかにたどり着くというから驚きだ。
しかし感心している場合ではない。競走馬の繁殖の世界における、この父系重視は科学的に正しいのか? お母さんの遺伝子や、子どもが胎内にいる間に母体が与えたものはカウントされないのか。
と、そんなことを思っていたあの頃であった。
それにしても前回は野球、今度は競馬と、だんだんオヤジ化しているなぁ……。次はゴルフか?

Written by

記事を書いた人

the apple of my eye

日本・米国にて商社勤務後、英国滞在中に翻訳者としての活動を開始。現在は、在宅翻訳者として多忙な日々を送る傍ら、出版翻訳コンテスト選定業務も手がけている。子育てにも奮闘中!

END