食わず嫌い
昨日の夕食時、ぼーっとしていて息子の皿に彼がいつもは食べないシイタケを盛ってしまった。「うわ!シイタケだ!」と文句を言うので、「そんなこと言わないで1個くらい食べたら」と勧めると、案外素直に口に運び、「フム……まずくない」とか言っている。なんだ、食べられるんじゃン。
有難いことに息子はよく食べるし好き嫌いもあまり無い。唯一、頑として食べないトマトも、給食ではお代わり欲しさに我慢して食べているらしい(自分の分を残す子は、好きなおかずもお代わりさせてもらえない)。保育園の頃は柑橘類も苦手だったのが、今は喜んで食べている。キノコ類も以前は食べなかったが、まずクセのないエノキから食べ始め、シメジやなめこもOKになり、昨日でシイタケも克服!ちょっと前にはパパが作ったピーマンとジャコの炒め物でピーマンも食べられるように。私も子どもの頃はシイタケ、春菊、ミツバといった比較的においの強いものは食べられなかったが、長じてシイタケは大好物に。ちょっとでも苦味のあるものは、チョコレートですら避けていたのに、今はすっかりコーヒー党。しかもブラック派。味覚は成長するものなのだ。
でも食べられるようになるには、まずそれを口に入れてみないといけないわけで、それはどんな場面でも同じことが言えると思う。成長するためには、やってみないことには始まらない。
翻訳の仕事は、その言語のものなら何でも扱うというわけではない。私は機械とか物理化学とか、そういった分野はダメ。コーディネーターさんもその辺はもちろん承知して仕事を割り振ってくださっているが、たま〜に、「なんじゃこりゃ?」の内容のものを請けてしまうことがある。たとえば契約書などの法律文書を専門にしていても、中にはその業界の高度なテクニカルタームがバンバン出てくるものもある。
以前、「仕様書です」と請けた仕事が、建築資材や工法の話で参ったことがある。医薬品会社の訴訟文書で、最新の抗生剤や治験の話が延々続いたこともあった。広告会社の社内文書だということで日英の仕事を引き受けたら、業界用語と和製カタカナ英語の羅列で構成された日本文が理解できずに四苦八苦することもあり、自動車のパンフレットでは、「しなやかな走りを実現」だとか「エンジンマウントの」とか、「トランスミッションの剛性が」、「走行安定性」「静粛性」「操縦性」「応答性」(「〜性」ってのが多いんですね)といった、独特の言い回しを研究したりもする。
要するに、食わず嫌いを少しずつ克服するのに似ていて、まったくの畑違いの仕事を引き受けたら消化不良で顧客に迷惑をかけることになるだろうが、だからといって専門分野を厳密に設定しても、自分は成長しない。タマネギが苦手でもお味噌汁に入っているものなら食べられるように、理工系の分野が苦手でも消費者向けのパンフレットや一般雑誌記事に入っているもの程度なら取り扱えるかもしれない、そういうことなのだ。苦労して食べているうちに美味しさに気づいて好きになることもあるだろう。