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ウィル、がんばれ

the apple of my eye

通訳・翻訳者リレーブログ

先週書くつもりだった、英国のウィリアム王子の破局報道。
英国中が大騒ぎするのはまあ分かるとして、なにも日本のワイドショーまでもがあちこちで騒ぎ立てることはないような。お妃候補に日本人の名前があがってるってなら話は別かもしれないけど。
それにしてもウィリアム王子は若干24歳。大学を卒業して、軍隊の訓練を受け、やっと仕官として勤務を始めたばかり。環境がどんどん変わっていくこの時期、下々の私たちだって学生時代からのお付き合いをずっと続ける人のほうが少ないんではなかろうか。
私は実は、ロンドン在住時代に英国王室についてちと書かねばならぬ仕事があって、多少調べたことがある。当時はまだ故ダイアナさんが健在で、離婚が決まった頃だった。BBCで独占インタビューを放映したら、その時間帯、ロンドン中から人の姿が消えてしまったなんてこともあったっけ。
先週、アメリカのことをよく知っているようで知らないと書いたが、イギリスのことも同じ。日本人にも人気の英国王室だが、執筆のために調べてみたら、知っているようで知らないことが色々あって驚いた。
たとえば、今の英国王室をウィンザー家と呼んでいるが、なぜウィンザー家と呼ぶのか。そもそも王室メンバーに苗字はあるのか。
王室の名前が変わるのは基本的に新しい家系から王が即位したとき。ヴィクトリア女王の息子のエドワード7世は父のアルバート公の家系の名前でサックス・コーブルグ・ゴータ家と呼ばれていた。ところがその息子ジョージ5世が即位した時代、第1次世界大戦でドイツが敵国となり、ドイツの名前をそのまま使うのはどうかということで、ウィンザーに変えたというワケ。チャールズ皇太子が即位するときは、フィリップ殿下の家系の名前をつけて、マウントバッテン・ウィンザーという名前になると、1960年に女王自らが決めている。
ウィリアム王子はエリザベス女王の直系の孫なので、王位継承権第2位だ。次にハリー王子、それからヨーク公アンドリュー王子、アンドリュー王子の2人の娘……と続く。英国王室は、直系に男子がいないときにのみ、女子に継承権が移るのだ。
ただしウィリアム王子も、何をやっても必ず王に即位できるというわけではない。エリザベス女王の伯父に当たるエドワード8世が、離婚歴のあるアメリカ人シンプソン夫人と結婚するために退位したのは有名。でも、チャールズ皇太子も離婚歴のあるカミラさんと結婚しているけど皇太子をやめていないので、この点はもう大丈夫そう。
今回の王子の破局には女王が介入していたと取りざたされていたが、実はこれは大問題。英国にはRoyal Marriages Act(王族婚姻法)という法律があり、王位継承権をもつ者は国王の許可がなければ結婚できないことになっているからだ。ウィリアム王子もやはり、どうあってもお祖母様の気に入る女性を探さなければならない。その点でケイトさんはOKそうだったのに……。
あともう1つ問題なのは、The Act of Settlement (王位継承法)という法律だ。1701年に制定されたこの法律(古い!)、王になる者は英国国教会かプロテスタントの信者でなければならず、そのどちらかである女性としか結婚できないと定めたもの。もともとは、カトリック女性と結婚したジェームス2世の息子を排除するためにこの法律を制定して、前妻の娘のメアリー(2世)と夫のオレンジ公ウィリアムを即位させたという、歴史の教科書のどこかで習ったあの「無血革命」の名残なのだ。王族婚姻法(1772年)といい王位継承法といい、こんなに古い法律がいまだに有効とは驚きだが、まあ英国の法律には時々こういうのがある。
なので、ウィリアム王子が今後、ヒンズー教徒やイスラム教徒の女性と恋に落ちても、相手が改宗してくれない限り実らぬ恋になってしまう。タブロイドに写真を撮られていたが、酔った王子に胸を触られていたブラジル人女性も、カトリック教徒だとしたらダメだなぁ。
……などと、余計なお世話で思いをめぐらせていた先週の初めであった。
いや、ウィル、君はまだまだ若い!恋せよ青年!

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日本・米国にて商社勤務後、英国滞在中に翻訳者としての活動を開始。現在は、在宅翻訳者として多忙な日々を送る傍ら、出版翻訳コンテスト選定業務も手がけている。子育てにも奮闘中!

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