10年ぶりの再会に向けて…
研究者とは往々にして、自分の専門分野で学んだことを私生活に応用しようとして失敗するものです。言語学者が自分の子供の言語習得過程を研究しようとした話や、心理学者の夫が喧嘩後の妻をなだめようとする話などはよく耳にしますが、理論と主観は油と水のような関係で、どうもうまくいかないようです。片足のつま先位は研究者生活をしている私ですが、先日ちょっとしたプロジェクトに取り掛かりました。
もう10年以上も前ですが、私が始めてアメリカを訪れたのは、中学3年生の時に参加したホームステイプログラムでした。カリフォルニア州のリバーモアという、サンフランシスコから車で東に1時間半位行った所にある住宅地です。そこでJoslyn一家と3週間を過ごし、つたない英語ながらも非常に楽しい時を過ごしました。初めての海外。周りを見渡すと白人ばかり(典型的な郊外の街ですね)。道は広いし、車は大きい。裏庭にはプールがあって、父親は5時を少し過ぎると帰ってくる。非常によい経験になりました。
もちろん日本に戻ってからも電話をしたり、手紙を書いたりしていましたが、1年位経った後、同州南部のサンディエゴに引っ越してしまいました。引越しの話は知っていましたが、連絡先を教えてもらう前に引越しがあり、それ以来ずっと音信不通に。
音信不通が10年以上続いたある日のこと。「アメリカでは高校を卒業して地元から離れた大学へ進学すると、多くの学生が高校時代の友達を失っていたが、今はインターネットの様々なサービスを使って”浅く広い”友達付合いが行われている」という趣旨の論文の最終稿を書いていました。ふと10年前のJoslyn一家を思い出し「探してみたら、見つかるかな?」と思ったのです。当時小学校に入りたてだった長女が丁度大学生になる年齢であることをヒントに、オンラインの様々な情報を使って彼女を探してみました。すると見事に見つかったのです。一般的な検索エンジンにも、電話帳にも載っていなかった家族でしたが、長女が友達の輪として作っていたオンラインのコミュニティーがありました。
早速メールを送り電話番号を聞いて、連絡をしてみました。家族は皆元気で、サンディエゴの丘を買って(規模が違います…)そこに住んでいるとのこと。「英語が上手くなったな」なんて言われて喜びながら、1時間弱懐かしい話をしました。
最近はテクノロジーの発達によってプライバシーや個人情報が漏れることへの危惧が高まっています。しかし技術史の分野では有名なクランツバーグという学者が6つある「クランツバーグの法則」の1つ目としてあげているのが「テクノロジーは善でも悪でもない。そして中立でもない」です。つまりテクノロジーの発展は社会的な環境の中で起こるもであり、人がそのテクノロジーをどう使うかによって、技術は善にも悪にもなり得る、ということです。テクノロジーに囲まれた社会の中で、人間の責任は一層大きくなっているのでしょう。