学生同通チーム
つい数日前、8名の現役大学生と一緒に国際シンポジウムで同通をしてきました。数ヶ月前のブログにも書きましたが、私が卒業し、4月から通訳科目を教える大学が主催するラテンアメリカの地域統合に関する国際会議で、日英の同時通訳がつきました。主催者の意向で是非、通訳を勉強している学生にOJTの機会を与えたいということになり、私ともう1人のプロを合わせた2名で、8名のお嬢様達と一緒に通訳を行いました。大半の学生にとっては教室の外で通訳をするのは始めて。しかもラテンアメリカの知識はゼロに等しく、ある意味無謀にも思える計画でした。しかし学生達は今年の初めからじっくりと事前勉強に努め、主催者の強力により大量の資料を提供していただき、何とか無事に終了しました。
一般的な国際シンポジウムのフォーマットで、3名の論文発表のあとに質疑応答が行われ、それが全部で4セッションありました。学生達は事前に担当する発表者の割り振りがしてあったので、論文を読み込み、発表用のパワーポイントを入手し、分厚い事前勉強ファイルと、数ページに及ぶ単語帳を持ち込んでいました。やはり発表の部分は無難に進行。アドリブで色々な情報を組み込む発表者もいましたが、比較的上手に対応していました。まだ通訳の勉強を始めて時間の短い人たちには少し焦りも見えましたが、数年勉強している学生達はアドリブを楽しんで訳しているようでした。ブース内には2名のプロのうちどちらかが常に常駐していて、学生だけが頻繁に入れ替わりましたから、我々もメモ取りでサポートする予定でしたが、それほどのサポートも必要ありませんでした。
しかし学生にとっての鬼門はやはり質疑応答と司会のコメント。完全なぶっつけ本番で、読み原稿も無い状況。正直何をおっしゃりたいのかわかりにくい司会の通訳や、ものすごい早口でコメントをされる場合などは、本当に大変でした。またラテンアメリカの学者は英語を母国語とせず、訛りの無い、きれいな音声テープで練習をすることの多い学生にとっては、英日も辛そうでした。結局質疑応答はかなりの部分を我々が対応することになりましたが、数名の学生はそれでも良いパフォーマンスを見せてくれました。
1日が終わってみると、何か修学旅行へ行ったみたいでした。これほど沢山の通訳者がいる会議もありませんし、ワイワイしながら、楽しく終えることが出来ました。学生にとっても、良い経験となったようです。皆が通訳者を目指すわけではありませんが、実際にブースの中に入る機会は限られていますし、非常に貴重な勉強になったはずです。なかなか勉強を始めて数年の大学生がブースで国際会議を通訳する機会はありませんが、この様な数少ない機会を利用することで、多くの学生にとっては夢を1日でも現実のものとし、一層のやる気を引き起こすこととなったでしょう。
私の隣で必死に通訳をし、時に数秒間の空白を作りながらも、何かマイクに言おう!とする学生の姿を見て、初通訳で同通を行った自分の姿が重なりました。先輩のメモを見る余裕の無かった私が、いつの間にかメモを取る側にいることはなかなか信じられませんでしたが、学生達の姿を胸に、初心を忘れずに努力しなければ、と心に誓った1日でした。