聴衆からのフィードバック
先週に続いて、エアロビクス通訳の話題。講座の2日目はインストラクターと参加者のコミュニケーションと言うテーマで行われました。コミュニケーション論では頻繁に言われることですが、意思疎通にはnonverbalとverbalの2種類があって、一般的に考えられているより前者の重要性が高いものです。エアロビクスの領域でも、様々なステップや動きをインストラクターが聴衆に伝える際、言葉を使って指示を出すより、色々な手や腕、足の動きを使って指示を出すほうが効果的だそうです。その中で、優秀な通訳者と優秀なエアロビクスインストラクターの共通点を見つけました。
エアロビクスでは基本となる動きを繰り返した後、次第に色々な動きの変化をつけて発展させていきます。インストラクターの腕の見せ所は、どのようにしてその変化を参加者にわかりやすい形で教え、参加者の頭の中が「???」で埋め尽くされないようにするかだそうです。その為には、教室の前で参加者と向かい合っているインストラクターが、参加者のNonverbalなフィードバックを読み取ることが必要との事。つまり、参加者の顔の表情から、その人が困惑している姿が見て取れるかもしれません。手足の動きから、教えている内容の難易度がやや高すぎるのがわかるかもしれません。レッスンが終わってから「先生、今日のレッスンはちょっと難しすぎて、先生の動きについていけませんでした」では遅すぎるのです。常に自分のレッスン指導を調節しながら、適切なインストラクションをしなければ、優秀なインストラクターとは呼べないとのこと。
これは通訳でも同じです。大きな会議場の別フロアで行う同時通訳や、目の前にはTV画面とマイクしかない放送通訳はその例ではありませんが、企業間の交渉や打ち合わせに通訳者として同席する場合や、様々な講演会で発表者の脇に座って聴衆と対峙して逐次通訳する場合など、通訳者は自分の訳がきちんと相手に伝わっているか、聴衆からのNonverbalなフィードバックを気にするものです(そうですよね?)。
もしも自分の訳出しパフォーマンスがよければ、きっと聴衆は色々メモを取りながら、「ウンウン」とうなずいてくれるでしょう。逆にわかりにくい訳出しをしていれば、発表者を見るのではなく、通訳者を見つめて、何とか理解しようとする素振りを見せるはずです。隣に座っている人と一言二言会話をして、内容の確認をするかもしれません。顔の表情からも簡単に様子がわかるでしょう。そんな時に、通訳者としては自分の訳を再度見直し、よりわかりやすくする必要があります。重要なポイントを最後に繰り返すとか、次の訳だしの際に少し情報を付け加えるとか。
会議や講演が終わってから「今日の通訳はわかりにくかったね」では遅いのですから。だからその為にも、大学で通訳を教える時には、出来るだけメモから目を上げて、話しかける相手を見て通訳する大切さを説明します。自信がないと、どうしてもメモに頼ってしまったり、相手の目を見つめるのが怖かったりします。しかし、聴衆のNonverbalフィードバックを受け取ることは、通訳の質を上げる非常に大きな武器になると思います。