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学生の成長

Hubbub from the Hub

通訳・翻訳者リレーブログ

母校で行っていた4月から7月までの期間限定通訳講座が終了しました。最初は100人を越える学生が集まった授業も、最後まで頑張った学生は40名弱。レポートは2つ、毎週単語テスト、そして毎週新しい教材を使うので、その事前準備があり、最後には期末テストが待っている、という非常に厳しい授業でありました。「通訳入門」というタイトルは名ばかりで、実際は「通訳入門応用編」や”Introduction to very advanced interpreting”という授業名がより似合いそうな授業でした。しかしその中で努力をしてきた学生は、確実に実力をつけました。

40名弱の学生の中には、これまでいくつもの通訳講座を履修し、新しい講座が作られたということで、私の授業を履修した学生がいました。これらの学生はすでに2年〜3年、もしくはそれ以上の学習経験を持っていますので、同時通訳も逐次通訳も、非常にスムーズにこなしていました。それとは逆に全く初めて通訳トレーニングを受ける、という学生もいました。そういった学生にとっては、いきなり厳しい授業で辛い思いをさせてしまったかもしれませんが、通訳の厳しさと達成感を味わってもらえたかもしれません。

講座を教えながら通訳人気の低下を何となく感じていましたが、このところは通訳を目指す学生たちの中でも「どうやったら通訳になれるか」という明確な道筋が理解されていないことに気付きました。これは学生側のミスではなく、教える側の落ち度かもしれません。「民間の通訳学校に通うべきなのか?」「勉強だけしていれば、仕事は回ってくるのか?」「どうすればデビューできるのか?」「いきなりフリーになれるのか?」などなど、我々通訳者にとっては「当たり前のこと」だからこそ、学生に伝え忘れてしまっているのかもしれません。通訳者を目指すとしたら、通常の就職活動をするわけではありません。自分に合った民間スクールがあればそこに通うのも案でしょうし、一部の大学のように講座が確立されていれば、そこで十分なトレーニングを受けることも可能です。何らかの形で通訳の世界に自分で飛び込まなければ、いくら勉強をしても機会は訪れません。

今回の講座では通訳講座は初めてだけれども、非常に勉強熱心で大きな成長を遂げた学生がいました。もしもその学生が通訳の勉強を継続し、十分な実力を養い、卒業を控えた時になって「やはり自分は通訳者になりたい!」と強く思ったとき、夢にチャレンジできる環境だけは整えなければ、と感じました。

その学生との会話の中で、「才能」と「努力」の話が出ました。現実として入門者用のお仕事が大量発生する時期に、自分が入門者であると、非常にラッキーかもしれません。私も放送通訳の需要が一時的に高まった時に放送通訳のお手伝いをさせていただき、それ以来会議だけでなく、放送もお手伝いをしております。非常に幸運なタイミングでした。しかし「才能」はあれば有利だけれど、結局「努力」かな、と感じました。毎日全く違った分野に対応するには、「才能」だけでは不十分でしょう。どんなに美しい英語と日本語が話せても、「相手を理解しよう」という気持ちが無ければいい通訳はできません。ですから学生たちが「自分には才能が無いのだろうか?」と疑問に思った時、「いや、必要なのは才能ではなく、努力だ」と思い直させるような教え方も大切でしょう。

教えることは本当に難しい。しかし数ヶ月前にはリピーティングでつまずいた学生たちが、同時通訳(もしくは「同通らしきもの」)をしている姿を見て、とても嬉しくなりました。

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Hubbub from the Hub

幼い頃から英語に触れ、大学在学中よりフリーランス会議通訳者として活躍、現在は米国大学院に籍を置き、研究生活と通訳の二束のわらじをはいている。

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