そして、ひと粒のひかり
2004年サンダンス国際映画祭で観客がナンバーワンに選んだ作品は、南米コロンビアから生まれた“そして、一粒のひかり”Maria Full of Grace でした。今回3日間に渡るプロモーション期間、インタビューを通訳するうちに色々なお話を監督のジョシュア・マーストン氏から聞くことが出来ました。偶然にコロンビア料理店で会った女性が、麻薬の粒を胃の中に飲み込んで運ぶ、運び屋であったことで、彼女から直接聞いた話からインスピレーションを受け、この映画を作ることを決めたそうです。800人近くの中から監督の求めていたマリア役のカタリーナ・S・モレノが選ばれることになりますが、彼女の映像を見た瞬間、まさに求めていたマリアだと感じたそうです。監督が2年半もかけて書き込んだ脚本の中のマリアと、カタリーナの内面的な強さやその神秘的な瞳にかさなる部分があったのでしょう。カタリーナは、素晴らしい演技力を評価され、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされました。麻薬密輸の話は警察や麻薬組織の上の階層からの視点で語られることはあっても、階層の下の人の声が一般の人たちに届くことはほとんどありません。貧困という弱みにつけこまれ運び屋となり、その上入国後に捕まり刑務所に入れられたり、又は麻薬の粒が胃の中で破裂し命を落としたコロンビア人は何百人といるそうです。物語に登場するドン・フェルナンド(オーランド・トーボン氏)は実際にニューヨークのコロンビア人コミュニティーの中で非常に尊敬されている人物の一人で、今までに400体以上の運び屋の死体を故郷に送り返したそうです。
この作品は単に麻薬の運び屋の話ではなく、17歳のマリアが人生に変化を求め、世の中に自分の場所を求め、人生の意味を見つけ出そうと旅立つ物語です。ドキュメンタリータッチで描かれ、とてもリアリスティックで思わず息を呑んでしまう場面も沢山。見終わった後も考えさせられる事の多い大変素晴らしい映画だと思います。秋に劇場公開が予定されていますので、機会があったら是非皆さんも劇場に足を運んでみてください。