背番号8です。
「通訳ってどんな仕事?」と聞かれて私は自分の仕事を「餅つき」に例えたりしています。話す人が”搗き手”で通訳は”水さし係”とでも言いましょうか。このあうんの呼吸が合っていないとなかなか会話がスムーズに進まないわけです。…しょっちゅう手ごと搗かれてしまったり餅べったべたにしてしまったりしている私が言うのもなんですが。そういう時は「ああ〜なんでなんでなんで?!」と心底がっかりなのですが、たまに”餅つき担当=クライアント側”の意見を頂く機会があると思ってもいなかった指摘にはっとすることがしばしばあります。
以前ロンドンのギャラリーのイベントで、大きなホール内に外の世界を再現しちゃおう、という企画がありました。歩道とか、生垣とか、小川とか、パブとか(←この辺りがイギリスらしい)。これだけ聞いても「それで?」でしょうが、実はこれ一筋の光も入らない真っ暗闇のホールでの話。この中を歩いてみて目の見えない方の世界を擬似体験してもらおうというのが主旨で、いくら目をこらしても自分の指先さえ見えない闇の中、慣れ親しんだ部屋の中ならともかく周りに何があるか全くわからない”外界”を歩くのは何と勇気の要ることか!(いやさすがに車は通ってないですけど)。
数人集まったところでガイドの方が付いてパブまでの道を案内してくれるのですが、このガイドさんが実は全盲の方。壁に突っ込んで行ったり生垣に踏み込んだりと放たれたニワトリの様にわらわらと右往左往している参加者の手を引いてすいすいと移動されるのです。そして漆黒の闇の中に賑わったパブがあり(バーテンダーの人も全盲の方)、もちろん飲み物も買えるのですが出してもらったグラスの場所もわからなければ代金を払うにもお金の区別がつかない..。帰りに小川(せせらぎサイズですが)に方足突っ込んで濡れた靴下のまま戻りながら「ああ、こういうことなんだ」と。
”相手の立場になってみないとわからない事は沢山ある”。単純な様で忘れがちですよね。残念ながら私は通訳される側の経験をしたことがないのですが(されてみたい)、何かが思った通りに行かなかった際はなるべく”もしも自分が反対の立場だったら?"を想像する様にはしています。偉そうに言ってますがもちろんこれに加えて技術の向上が大前提なんですけどね..(小声)。毎回きれいなお餅が搗きあがりますように…。
ちなみにこれ日本だったら安全性がなんちゃらとかで絶対実現しなさそうな企画な様な。確かに何も本当の水流さなくても、と帰り道濡れた靴下がキモチ悪くてせつない気分だったのは覚えてますが。