隣の芝生は青いもの
現在、欧州の会議通訳者であり、一度お仕事を一緒にさせていただいた同僚がパリから休暇でニューヨークに遊びに来ました。今まで本当に有難いことに、様々な個性が光る通訳者の方々とお仕事をさせてもらっていますが、気が合う人ってすぐに通じるものなのでしょうか(←自分が勝手に思い込んでいる節もありますが…)、仕事以外でも機会を作って食事を一緒にして時間を過ごしたり、他愛もないことも含め情報を積極的に交換することが多いです。私にとって彼女はそういう同僚の一人。
昨年、パリにあるフランスの大学院ESIT(Ecole Superieure d’Interpretes et de Traducteurs←アクサンなしになってます、ご容赦くださいませ)を卒業した彼女は、その後も欧州で日英の会議通訳者として活躍しています。入学すること自体が超難関のESIT。日本語が入る場合、少なくとも入学時に英語、フランス語をマスターしておかないと受け入れてもらえません。その証拠に彼女の在学中に日本人は彼女だけだったようです。そして、現在は日英が中心のお仕事ですが、フランス語はESITでは言語Cで登録していたとはいえ、ちょっと耳に挟んだ彼女のフランス語は自然な感じで感心するほど上手。
どうすればこういう多才な人が生まれるのだろう??と色々なアングルからの質問を浴びせかけてしまいました。
ESITでのトレーニングの密度の濃さに驚きつつも、EU本部や欧州議会、国連関係の同通ブースですぐにお仕事ができるなんて私からすれば夢のような立場。もちろん本来の語学センスだけでなく、地道な努力も十分されたことがお話から伺えますが、彼女曰く、欧州では日本語がからむ会議通訳者の数自体が少ないし、その中で自分が圧倒的に若く、学校で教わる以外の現場の常識をあまり知らず戸惑うとのこと。日英通訳者が多い日本だったら多種多様な仕事を通じて学べることもあるのに…と彼女なりの悩みもあるようです。「うーん、隣の芝生は…っていうことね」と思わず言っちゃいました。
思わず「サルコジは嫌いだけど、でもそれを差し引いてもあのパリの空気を吸えることがどんない素晴らしいことか♪あなたは礼儀正しいから目上の人からもきっと可愛がってもらえるし、それに真面目で好奇心旺盛でしょ。それに通訳の技術はESITを無事卒業したことでも証明されているわけだから大丈夫!」と私に太鼓判を押されても納得しないだろうな〜と十分承知しながら励ましていました。元気になったのか、彼女も「そういう昼顔さんもパリが思いっきり青い芝生になっているじゃない?」と言われたので、悔しいけど正直に「うん、眼に眩しいほどの芝生だよ」と答えておきました。
さて、欧州でも日本の通訳業界ほどではないにしても、世界的な超不景気の波は2009年になってから大津波となって襲っている様子。今日、二人でしみじみ話したのが、こういうときは「慌てず、焦らず、他とも比べず」の精神で、次の仕事がいつ来ても対応できるように地道に準備しておこうということでした。
彼女からは英語だけでなく、フランス語の面白い文献や映画、自主トレーニングの素材になりそうな有益な情報をもらったので、これを使って当面は自宅籠りの日々でしょうか。とりあえずはアメリカでは主流の一つであるオーディオ・ブックを使ってのシャドーイングと通訳練習となりそうです。