通訳者に求められる装い
我が家のクローゼットを見ると黒やグレーなどモノトーンなスーツが大部分を占めていています。それはまるで礼服コーナーのよう。
通訳者という職業は、文字通り「黒子」に徹する仕事ですから周りにとけこむ目立たない地味色のスーツが一番です。
ただそうしちゃうと華やかさに欠ける部分は否めません。ずいぶん昔のことですが、通訳者になる前の仕事で国際会議に出た際、「日本と韓国の代表団は遠くからでもすぐわかる。地味な色の集団が団体で行動しているからね」と皮肉を言われたことがあります。代表団の構成ではこの2国は圧倒的に女性の割合も他国に比べて少なかったし、案外、当たらずといえずも遠からずね〜と個人的には頷くところがありました。
そこでの教訓(?)を活かし、黒子ではありますが、自分なりに工夫はしているつもりです。明るい色合いのスカーフやストールを首元に巻いたり、指先を少しネイルで華やかにしてみたり、はたまた大ぶりだけどデザインの凝ったバッグを持つなど、女性ならではの柔らかさも出していきたいじゃないですか!
さて、通常の会議やブースでの同時通訳、壇上など人前に立つ逐次通訳やインタビューなら上記の装いで問題ないのですが、仕事の内容によってはこの発想自体を変える必要もあります。
例えば、最初に頂いた通訳の仕事は建築現場だったので、ジーンズに動きやすい靴と汚れても問題ない格好で職場に通ったものです。また会議に工場視察が組み込まれた日程などの時は、ジャケット・オフでも恥ずかしくないインナーに靴は低めのヒールが一番ですし、接待で料亭など畳の間で長時間の通訳を余儀なくされる場合は、足元を崩してもばれないロング・フレアスカートを着用するといいかもしれません。
また仕事をする際、違う面で頭を悩ませることもあります。
実例ですが、数年前、有名ブランドを数多く傘下に収めているクライアント依頼のフランス語通訳をしたときのこと。その時は高級時計ブランドのフランス人デザイナーに対する雑誌インタビューでの通訳でした。時計大好きな私としてこれは楽しみな案件!自分の持っている時計はそのクライアントの有するブランド時計でしたし、当のデザイナーもかつてはそのブランドで活躍していた…と聞けば、心おきなく愛用時計をしていきたいところでしたが、同傘下でもやはり違うブランドですからその時は時計をせずに仕事に臨みました。いつも身につけている時計がないので不安でしたが、まぁそこは常日頃から鍛えている「腹時計」でなんとかしのぎ…なんてことはなく(笑)、携帯電話で時間を確認しました。
今週の通訳もそういう意味では少し考えなくてはいけない類のクライアントです。前回お仕事をさせていただいた時も「気軽な格好で構いません。ジーンズでもいいですよ」とおっしゃってくださったものの、さりげなく身につけているものをチェックしているのがわかるんです。うーん、どうしましょう…とこの状況での「あるべき装い」に頭を悩ませているところです。