史上初、国連での落語
2009年度文化交流の一環で桂小春団治師匠がNYで落語の公演を行いました。小春団治師匠は今までも11カ国で公演されているようですが、今回はStand-Up Comedyが盛んなこのアメリカで「the World’s Funniest Sit-Down Comedy」と称し、史上初、国連会議場で関係者を招待しての公演となりました。
以前のブログにも書きましたが、今、国連本部は建物が老朽化したため、隣の敷地内に仮建屋が建設。今回はその仮会議場での公演です。日本の伝統的笑いである落語では人が集まらないのはと心配する声もありましたが、公演後の日本食でのレセプションが効いたのか(?)200名程度が参加し、なかなか盛況ぶりでした。
出し物は「お玉牛」と「皿屋敷」。落語自体は日本語で行い、高座後方の幕に英語、フランス語、中国語、スペイン語の字幕が出る仕組みです。この5言語で世界人口の55%を網羅する画期的な試みとのふれこみでした。
今回の公演は私にとっても心待ちにしていたイベントでした。というのもまず個人的に落語は大好き。日本にいた時も時間がある週末などは夫と一緒にお酒とおつまみを片手に寄席に行き、思い切り笑い、ストレスを発散させていたものです。なんとも言えないあのゆるーい空間がたまらなく好きなんです。
また、職業上、字幕にどういう工夫を施したのかもとても関心がありました。通翻訳を生業にする人なら、それぞれの文化の中で育まれた笑い、特にダジャレや言葉遊びなどの通翻訳はかなり手ごわい作業となるはず。必ずしも笑いを理解する土壌が同じではないですからです。よくあることですがつかみのギャグの通訳なんて大変ですよ。
翻訳ならまだ適訳を考える時間はありますけど、通訳はせいぜい数秒程度。また会議やプレゼンなどと異なり、ギャグをわざわざ事前にブリーフすることもないですから。何度、面白くもないギャグに冷や汗をかいたことか!そして何度、心の中でそういう人に「ハリセン」を食らわせていたことか!!
さて、今回の噺については、字幕4言語のうち英語とフランス語しか分からないので、この2言語での字幕についてしか言えませんが、フランス語は淡々とそのまま師匠の言葉を訳し、残念ながら面白味に欠ける感がありました。もちろん誤訳ではないですが、フランス語字幕だけだと笑えないかもしれません。それと対照的に英語は直訳ではなく少し大胆に踏み込んで取れる笑いを積極的に取っていく姿勢が良かったと思います。実際、字幕で笑いを上手く誘っていたのも事実ですし、参加者からの評判も良かったですね。
日本での寄席より意識的にゆっくりと話し高座で噺を披露する師匠に加え、行動の制限が多い国連敷地内で準備された関係者の方々。ただでさえ塩梅が難しい笑いの訳に加え、字数制限もある字幕翻訳を担当された方々の努力が報われた瞬間を共有できたことが何よりも嬉しかったです。