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自由意志と強制力−その相乗効果

パンの笛

通訳・翻訳者リレーブログ

 もうかれこれ一年くらい、個人のブログを書こうかどうしようか悩んでいます。もう今どきはありとあらゆる種類のブログが存在しているし、始めようと思えば簡単に始められるツールやサイトもたくさんあるのだから、悩んでなんかいないでやってみれば良いのですが…。まずは丁度いいテーマを選別できません。仕事の話を書いてしまったら守秘義務に抵触しそうで怖いし、趣味の話を書くにはもう少し知識が必要だし、子育ての話もそろそろ息子が大きくなってきて、個性が強くなってきているので読者の方々の共感を誘えるかどうか…などとウジウジと考えているワケです。でも、本当のことを言えば、最大の原因はずばり、自分が実はめんどくさがりの三日坊主の性質なのを百も承知だから、なのです。そう、こんなことまったく自慢にもなりませんが(そしてこのコーナーでも何度か自己申告したこともあるように思いますが)、私は根が本当に怠け者なのです。子供の頃から、勢いを付けて何かをエイやっとやり遂げるのは大得意でしたが、日々コツコツ積み上げるのは大の苦手。その私が良くもまぁ、翻訳業などに収まって、しかもここまで続けて来られたなぁと我ながら感心してしまいます。でもおそらくそれは一つには、翻訳業は私にとっての背水の陣だったから。もう、これ以外選択肢のない状況に追い詰められていたのです。仕事はしたいけど、子育てもしたい、しかもおこがましいことに私固有の結果が出せる仕事がしたい、と思いつめていたのです。そんな私が限られた時間や条件下でも仕事をしようと思ったら、もう翻訳という選択肢しか考えられなかったのです。そして次には、予想以上に翻訳が楽しかったから。とにかく文字の羅列を眺めるのが好きな性質なので、それが翻訳の原稿であろうとも、自分が仕上げた訳文であろうとも、参考資料であろうとも、文字の羅列を見ていると落ち着くのです。特に自分がその文字の羅列を作り上げていく作業は、かなり快感です。ましてやそれがうまくまとまったときには、ゾクゾクします。でも何よりも最大の理由は、適度な強制力が折に触れて働いていたから。今思い返せば、翻訳学校で出された課題は、分量が本当に少なかったと思います。その分考えをめぐらせることが求められていたのでしょう。その後に初めて「翻訳者」としてお仕事をいただいたときには、翻訳学校でやっていたようにくどくどと考えている余裕がないことに愕然としました。そしてさらにその後、初めて一旦在宅で翻訳をするようになった頃には、実にうまい具合にエージェントの担当の方が「ちょっと無理め」の依頼を投げかけてくださったのです。当時は依頼内容を聞きながら冷や汗をかいて、心の中では「できなかったらどうしよう、期限までに終わらなかったらどうしよう」と考えていましたが、実はその焦燥感がうまい具合に働いていたのではないかと今になってみれば思うわけです。「何が何でも期日までに、それ相応の品質で提出しなければ」という強迫観念という名の強制力が働いて、自分の楽しみや自分の目標達成だけのために翻訳をしていた頃よりも、ぐっと実力を引き揚げてくれたように思います。そして、こうした私の自由意志と外からの強制力の相乗効果は、今も続いているように思います。お仕事をいただいて、その仕事で成長できるなんて、幸せなことです。…でも、たまにその焦燥感の表れか、訳文にダメ出しをされる夢を見ることがあります。こんな夢を見た翌日は丸一日、気分が優れません。せめて、これも一種の強制力として働いていると思いたいです。

Written by

記事を書いた人

パンの笛

幼少時に英国に滞在。数年の会社勤めを経て、出産後の仕事復帰を機に翻訳を本格的に学習。現在はフリーランスの在宅翻訳者。お酒好きで人好き、おしゃべり好きの一児の母。

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