取材
先週も書きました通り、今週は当家に取材の方が来ました。厳密には、市立博物館が来年刊行を予定している出版物のためのジャーナリストとカメラマン。なぜ取材されたかというと、筆者が住んでいるアパート建物とそのエリアが、識者の間では高く評価されているという、いわゆる歴史的建造物だからです。数年前には、建物の外観を含めた地域全体の景観を新築当時のものに保存・回復することが決まり、補修を行う場合の原状回復を前提としたガイドラインが定められました(注:各物件の室内は、所有者が自由に改装できます)。国内では一種の文化財となっているほか、国際的な建築リストにも登録されているといいます。
そんな当エリアが2年後に区切りの記念年を迎えるため、市が住民たちの声や暮らしの様子を集めた出版物を刊行予定・・・そんな風に理解しています。
歴史的建造物、といっても、正直なところ一般の人の目には平凡な住宅エリアにしか見えないと思いますし、地価だって取り立てて高いわけではなく、当の私たち自身、「建築学上の価値」とやらの話を聞かされたのは転居してきてからのことで、正直「ふーん、そうなんだ・・・」という感想しかありませんでした。
補修時のガイドラインがあるといっても、建物全体に関わる大掛かりな改修は住民が一致しないと進められませんし、別に国や市が直してくれるわけでもありません。多少の助成はあるものの、各世帯が費用を負担しなければならないのは普通の住宅と同じです。
それでも、初めて物件を見に来たときのことはよく覚えています。「年数の割には古さを感じさせない、実際の広さの割には機能的な、なかなかよく考えられた間取り」の家であることは素人目にもわかりました。また、建築博物館に行くと、いまこの記事を書いている自宅建物の写真がたびたび展示されているのも事実です。
そして、これと同じ時代の建築物が日本でどう扱われているかを見ると・・・当時の技術の違い、ヨーロッパとアジアの気候の違い(湿度などが建材の寿命に影響するのだそうです)もあるでしょうが、もうそろそろこの世でのお役目を終えつつあるものさえ出てきているようです。
そんな、素人ではなかなか見分けのつかない価値を、専門家なり、自治体なり国が掘り起こし、「税金を使って」アピールしてくれるのは、住民にとってありがたいことだと思います。
しかし、それが何のために行われていることなのかをもう少し掘り下げて考えてみると、地元住民の利益だけではない、もっと広義の街づくり、さらに言うと独立して93年しか経っていないフィンランドの「歴史づくり」の一環でもあることが見えてきます。つまり、その建築物が所在する自治体、さらには国全体の有形無形の資産を維持し、その価値を上げていく動きにつながっていることがわかるのです。
それは、地域のイメージアップや活発な人の流れ、治安の維持、環境保護などともリンクしていくでしょう。
ヘルシンキはまだまだ各所で開発・再開発が進行中で、そんな場所に建つ新しい現代建築や都市計画にも、個性ある素晴らしいものがたくさんあるのです。しかし、筆者が住むエリアやその他の場所で行われているように、既存の建築物や住宅地域を可能な限り生かしていくという考え方にも共感します。そして、フィンランドにとっては外国人居住者である自分自身も、一住民としてよりよい地域づくりのために何かしていければ・・・と思わされるのです。