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「すぐれた国」

トナカイ

通訳・翻訳者リレーブログ

今週、ヘルシンキはいわゆるバカンスシーズン最後の週でした。夫は仕事に戻り、息子は保育園へ。娘は週明けから3年生に進級です。
今週の筆者は通訳や打ち合わせで外出が重なり、家でもデスクワークがありプチ徹夜状態。まだ休みが残っている娘は、同じ建物に住むお家の子と遊園地に連れて行ってもらったり、夫の職場に行ったり、また別の友達のおばあちゃんの家に行ったりと、周囲のおかげで何とか楽しく過ごさせてもらいました。
母親としては他のお宅に子供を任せっぱなしで申し訳ないという思いもあるのですが、今週一緒だったお友達は一人っ子だったり、年の離れた兄弟しかいない末っ子だったりで、親御さんがいつも遊び友達を探しているという一面もあります。そういう意味では、罪悪感でがんじがらめになるよりは、お願いできることを感謝して先に進んだ方が皆にとって健全だと思うようにしたい。自分が何かできるタイミングのときには、進んで何かすればいいのですから・・・
また、共働きが基本のフィンランド家庭では子供のいる母親の約8割が仕事についていますので、仕事が忙しいせいで子育てがおろそかになるというのは、心配事ではありますが真実ではないと思います。要は愛情とコミュニケーションの問題だということ(ちなみに当家では、娘「ママ、仕事多すぎ!何とかならないの?」と「開かれた対話」が進行中・・・汗)。そして問題を一人で抱え込まず、仕事と家庭を対立させずにすむような、家族に対する一定の考え方や社会福祉制度も整備されていると思います。

そういえば、今週クライアントに同行して伺った企業の社長さんは、フィンランドに20年近く住む南欧出身の方でした。筆者と同じようにフィンランド人と結婚して当地に根を下ろし、お子さんもまだ小さいようです。その社長さんは、会食の席で通訳の筆者にも話を振ってこられました。「日本とフィンランドと両方住んでみて、どちらがいいと思うか?」
そうですね・・・

日本は生まれ育った国ですし、東京は世界中の人とモノが集まる大都市。魅力的でないはずはないと思います。何でも売っているし、何でもおいしい。海外暮らしの者にとっては涙が出てくるような、ていねいで行き届いたサービス。
一方、フィンランドが「すぐれた国」であることも押しも押されぬ事実だと思います。まず、生きる原点に戻れるような豊かな自然。そして、教育レベルの高さが、人々の物事への理解力の高さ・深さにつながっていることに驚かされます。さらに、国民一人一人が、日本よりずっと大切にされています。それは、外国人居住者の筆者でも同じように感じます。政府が国民を信頼し、国民も政府を信頼している、本当に「信頼できる国」・・・この点については、社長さんとも意見が一致しました。

しかし・・・「いい人」とは、時に退屈な人の代名詞であることも(笑)。日常生活レベルの楽しみや娯楽、消費生活の面では、正直物足りないかもしれません。高い物価や税金、厳しい気候、難しい言語、日本人にとっては乏しい食材・・・などのチャレンジもあります。
一方、日本では考えられないような禁止事項もあります。アルコール類の販売ができるのはガバメントショップのみで(ビールやシードルなど、一定度数以下のものはスーパーなどでも販売可)、平日が18-20時、土曜日16時まで、日曜日は販売不可。母乳育児を奨励するため、人工ミルクの宣伝は禁止。そして、15歳未満の子どもへの暴力は全面禁止。1980年代に施行され浸透したそうですが、公立校ではすでに20世紀初頭から教師から生徒への暴力が禁止されていたそうです。暴力の定義は法務省が押さえており、虐待やネグレクト、性的虐待が含まれるのはもちろんのこと、ちょっとした体罰、怖がらせたり、大きな声で怒鳴ったり、威嚇することさえ暴力の範疇に入っているようです。極端な話、スーパーの店先で子供がちょっと言うことを聞かないからといって頭をはたくだけでも犯罪となり、警察が来てしまいかねないというわけです(学校の先生、社会福祉関係者や教会の職員には通報義務もあり)。
夏の怪談やきもだめしも、フィンランドではご法度・・・かも?(わかりませんが・・・)

ここしばらく日本のニュースで幼児虐待の事件を見るにつけ、心底胸が痛みます。現時点でフィンランドから日本の報道を見聞きしていると、この点については日本が蛮行が野放しにされている無法地帯、のようにさえ見えてしまうのです。親の責任感が・・・、親の生い立ちが・・・、行政の介入が・・・とか、いろいろな要素があるのだと思いますが、フィンランドでいろいろな制度や支援が「充実」していることを考えると、フィンランドでも問題が皆無というわけではないことを意味していると思います。日本でもすでに一定の法律が施行されているのですから、こういうところでこそ実効性が上がるよう、社会が整備されることを願わずにいられません。

さて、個人レベルの話としては、今の生活に全く不満はないものの、フィンランドに移住していなかったら今頃どうしていたかな?と考えることはあります。仕事の面でも、筆者はフィンランド移住前から日本で翻訳のお仕事をいただいていました。それが当時はそれほど関心を持っていなかった国に移住することになり(北欧がブームになる直前のことで、不遜な話ではありましたが)、子育てなどもはさんでちょっとした方向転換をせざるを得なかったのは事実です。
今でこそ、取扱言語を一つ増やすことができたのだと思えるようになりましたが・・・
そして、最近はますますチャレンジングな案件が増えており、頭を抱えてしまうこともしばしばですが、これもフィンランドが「すぐれた国」であるお陰なのだと思うようにしています。

それでは、皆様よい週末を。

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記事を書いた人

トナカイ

フィンランド・ヘルシンキ在住の多言語通訳・翻訳者。日本で金融機関に勤務の後、ヨーロッパへ。留学中に大学講師を務め、フィンランド移住後は芸術団体インターンなどを経て現在にいたる。2児の母。

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