即席コピーライター
レストラン関係の知り合いから、SOSメールが入った。
有名シェフを冠にいただくこの全国展開の店、くだんのシェフを招いて、近畿地方の某店舗が「創作メニューの日」を企画中。メールの発信者は、かつて私がフランス語を教えたソムリエ氏である。
「当初は日本語でフェアーのキャッチフレーズを考えてたんですが、急遽、フランス語のしゃれた響きがいい、ということになりまして・・・が、私の知識ではそこまでのことは無理で・・・助けて下さい!明日までに、なんとか!」
あのねえ。たしかに私は教師だったわよ。翻訳も通訳もやるわよ。でもさ、「お客を呼び込むためのキャッチフレーズ」ってのはね、さらに別の能力というか、センスというか「あざとさ」が必要なのよ、そんな、深夜に帰宅してこれから明日掲載のブログ書こうってときにさあ、こっちの脳みそのシワにだって限界ありまっせ!!! と言いたくなるのだが。
しかし、こともあろうに今日は亡き父の十三回忌。お寺で和尚さんのお話を拝聴し、心を入れ替えてまたがんばりましょう、なんて、洗脳(??)された直後だったから、よっしゃ、と頭にネジリハチマキ。考える、考える、あのレストランのイメージ、シェフの顔、得意とされている料理、予想される客層、など、など、など。イメージを膨らませ、凝縮して、浮かんだ言葉を片っ端からフランス語にしてみる。
ここで日本語に再翻訳してしまうと、面白くも何ともないから省くけど、まあ「春の日のテーブル」とか、「シェフのエスプリ」とかね、真っ正面から読んだらこっぱずかしくて下向いちゃうようなのばっか。
それでもとにかく、20通りほども考えて、返信クリック。
なんだかな〜〜〜。よくわかんない、こういう仕事って。
日本人って、とくに有名シェフのフレンチレストランの特別企画にこぞって通うようなおばさまたちって、どうして、論理も道理も美学もない、ただの「字づらの」横文字に弱いんでしょうね。まあ、それで私の生徒の店が繁盛するんなら、商売にだけは貢献してあげたいけども。
「文法的に正しいかどうか、先生に聞かないと自信がなくて。」と言われたけど、はっきし言って私が候補に出したコピーなんか、どれもこれも文法無視だわよ。
日本語だってさ、「ちょうどいい日を選んで、出発しましょう。」じゃなくて「いい日旅立ち」なんだからさあ。なんで「響きが・・・」優先でフランス語にしたい、って言ってるくせに「文法云々」と来るのかしらね?? 矛盾してるよ、キミ!
動詞が抜けてるとか前置詞がどうのこうのとか、知ったこっちゃありません。もう、直感しだい、大バクチの無責任翻訳。し〜らない。
こういうとき頼りになるのは、パリの地下鉄のプラットホームにどか〜〜〜んと貼ってある、有名デパートのバーゲンのときのポスターに見た、数々の名コピー。「はは〜ん。こういうふうに文法逸脱しちゃっていいんだな、そうすると、こういうインパクトが出るわけだ。」と、かつて、欧州生活の日々のスキマに、すでに「コピーライター修業」していた自分。おかげで、同じ「文法とびこし」でも、激安量販店式の方法論と、プチ・ブルジョワ相手のこじゃれた方式の、この二つのやり方のコツぐらいは、把握して帰国したのでした。
今回はもちろん、こじゃれてハイソな日本のマダム向け。
はたして、お料理のお味はいかに。