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グルメ、グルマン

ガットパルド(gattopardo)

通訳・翻訳者リレーブログ

グルメは「食通」、グルマンは「食いしん坊」と、通常翻訳されます。
と、いうことは、私は当然のごとく「グルマン」、しかも女性形で「グルマンド」。
本日、当世話題のトレンディ・レストラン、銀座にある「ベージュ東京」というところで、大事な友人とランチして参りました。一人あたま払った金額は1万2千円、ランチででっせ。しかし、満足。さすが、話題になるだけのことはありますね。
あらら、こんなことばっか書いてると「ここは通訳翻訳エージェントのサイトですよ〜〜、グルメマガジンじゃないんですから〜。」という、工藤社長のお声が響きそうだけど、ま、たまには、お許しを!
この店、なんでも、ミシュランというガイドブックで近年「星の獲得数ナンバーワン」らしい、アラン・デュカスというフランス人のシェフの料理と、内装・従業員の制服その他、ビジュアルはあのシャャネルの企画、というところが呼び物。業界ではオープン前から話題だったらしいけど、新聞もロクに読まず、情報源は深夜テレビと電車の吊り広告だけ、という私が、そんな前評判知る由もない。たまたまここで働いてるソムリエさんと、別の仕事で顔見知りだったというだけ。
勧められるままに以前、一度行ってみたのだが、なかなかのもんかな、ぐらいに思ったら、そのとき同行してくれた友人が「すごい、すごい、気に入った、満足した!」と絶賛。この建築家の意見にはふだんから一目置いていたので「彼女がそう言うんなら、きっとすごいんだろう。」と、単純な私はすぐ洗脳されてしまう。そして今日は、もう一人別の、やはりかなり目と舌の肥えた友人とでかけてみた。こちらの友人も同様に狂喜。
銀座4丁目から数分、シャネルビルの最上階という立地からして、いかにも「ヤッタ!」なんだけど、世の中の食べ物なにをたべてもほとんど美味しく感じてしまうこの私が、それでも「おお、これは!」と感動したのは、その盛りつけ、料理のアレンジ、お皿の上の完璧なクリエイション。野菜の皿も、お肉の皿も、デザートの皿も、あっぱれと叫びたくなるぐらい「瀟洒」である。厨房を取り仕切るデュカスの弟子のコック長は、当然のごとく男性だけれど、この人、きっといま流行りのビーズ細工をやらせたら、さぞチャーミングなアクセサリーを次から次へ創作できるだろうなあ、と思わせる、そういうセンス。
しかし・・・それにナイフで切れ目を入れ、何年西洋料理を食べていてもいまだにフォークを左手でうまく扱えず、ナイフ作業の後でフォークを右手に持ち替えながら、グシャグシャに食材をかきまぜて食べてしまう自分が、なんとも情けないんだわ。
デュカスさん、シャネルさん、ごめんなさいね。でも、美味しいものに目がないことだけは、ほんとよ、信じて。
しかし、料理というのは、人間のなす創作のうちでも、もっともはかない運命を背負っていると言ってもいいですね。しばらくガラスケースに入れて拝みましょう、なんてもってのほかで、「熱いうちにどうぞ」だの「冷たいうちにどうぞ」だの、あっというまに形はくずされ、後味を含めてもわずか数秒のあいだ舌の上でその味覚を審美されるだけで、胃の腑におちてしまう。あとはもう、記憶のうちにその薫香が残るのみ。
フランスという国は、イヤミなところも多々あるけれど「飲むこと」「食うこと」という、いわば無形の文化を、ここまで徹底して追求する人種と職種を生み出した、という点では、偉大なのかも知れない。もちろん、ほかの国にだって、グルメと、その舌を満足させるべく日夜奮闘する料理人は、いる。でも、ワインやレストランを「ランク」で分類し「ランク付け」という行為に「権威」をあたえ、しかもそれを武器に諸外国を啓蒙・洗脳・文化支配しようとする、その豪胆さと傲慢さ。
あっぱれ、なのか。よくやるよ、なのか。
文学・言語をきっかけに、おフランス文化になじみきっている私にはもう、批判能力がないけども、とりあえず人間は、日に三度、メシを食う。一回一回がしあわせならば、まあ、いいか。で、本日は、ほろほろ鳥の美味なるソテーにプロヴァンスの赤ワインを合わせ、ほっぺたを銀座のど真ん中に落っことして帰ってきました。
いつもとスリーランクばかり違う、日々のしあわせなり。

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ガットパルド(gattopardo)

伊・仏・英語通翻訳、ナレーション、講師など、幅広い分野において活動中のパワフルウーマン。著書も多数。毎年バカンスはヨーロッパで!

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