デザイナーのまりこさん
と、ひさしぶりに会いました。
デザイナーといっても、お洋服のじゃなくて、グラフィック。「絵」と「柄」と「レイアウト」だったらなんでもおまかせ!の、たよりになる女性である。くりくりした大きな目と、忙しくてせっぱつまったときでさえ、いつもほがらかに笑っている表情がとっても魅力的な2児のママ。私は彼女に「通訳デビュー」した10数年前から、名刺のデザインをお願いしている。また、仕事上大切な関係者に文面で通信したりするときに、彼女のアイディアでカードなどを作ってもらうこともしばしば。
理屈ではなく、私は彼女の感性とデザインセンスには出会った当初から敬服している。なんというか、決して押しつけがましくなく、しかし、こちらが訴えたいところをうま〜く突いて、しかも、センスのいいデザインに仕上げてくれる。
私のキャリアの進展や変化、私的な生活の変遷なども把握してくれているから、なんともやりやすい。最初は「まだ駆け出しですが、がんばります、って感じのものにしましょうね!」と言って、白地にグリーンの文字を配置し、元気なイメージながら真面目さが漂うような名刺を作ってくれた。
しばらく前に現行のものにバージョンアップしたときには、海外仕様の携帯電話を持つようになったのでその番号も名刺に記載しなければ、ということと、プラス、「だいぶ大人になりました。」の意味を込めて、しっとり日本調のお花のワンポイントを入れてみたら?というデザイン提案をもらった。
今回会ったのは、そのお花のモチーフをベースに、レターヘッドや封かん用のシールを作ってもらう、という相談のため。
お茶を飲みながらよもやま話もするなかで、ふと耳に残った彼女の言葉がある。どうしてデザイナーになったか、といういきさつに話が及んだときだ。ご両親が商業用のパッケージデザイン・製作の仕事をしており、まあ、「なんとなく」環境になじんでいたので、その道に進んだ、とおっしゃるのだが・・・「だから、あこがれってなんにもありませんでした。父は大手のパッケージ会社の部長だったんですが、アメリカ出張に行くと、スーツケースを空の牛乳パックやお菓子の袋でパンパンにして帰ってきて、それを、端っこを折り曲げたりだの、破いてみたりだのして、夜中まで写真に撮って、資料にしてたり・・・地味で大変なところを子供のころから見てましたからね、デザイナーとか企画者っていう仕事に、あこがれなんかなんにもなかったし、かっこいいとも思ってなかった。父から「こういう分野に進んでも、給料安いんだぞ!」って言われてたし。才能があれば儲かるとも思ってなかったし。だから私、デザイン学校時代のクラスメートに、すごく夢をもった人とかがいると、ギャップ感じてました。」
そして、こういう人が、じつにいい仕事をしているのである。私の名刺製作なんて、もちろん彼女の仕事のほんの一部。
しかし、耳が痛いとも、身にしみるとも言える、この発言。
外国語を勉強中のみなさん、くれぐれも、外国語を操れることをかっこいいなどと思うなかれ。いかなる分野も同じこと。現場で格闘している人々は、日々、空き箱の角を折り曲げては使い勝手を確認するような作業を繰り返しているのですぞ。そして、もしあなたに他人にはない才能があったとしても、安直に驕るなかれ、だから儲かる、ってもんでもありませんぞ!
まりこさんからデザインの案を添付したメールがとどくたび、送信時刻を見てビックリ、早朝3時4時なんてあたりまえ。2〜3時間の仮眠のあとは、小学生の長男を学校に送り出す姿が見えてくる。手に職つければ、仕事と育児の両立もラク・・・こんなのも、私に言わせれば外野の勝手な想像。
ただひとつの真実:「いい仕事」に誇りを持っている人は、さりげなく、いつも笑顔である。