言語ちゃんこなべ
・・・のような、ここ数日の私の頭の中。
今月はワインのテイスティングのためのフランス語の授業の月。この予習がけっこうきついのである。
ワインといえば、赤・白・ロゼ。これは基本中の基本だけど、同じ赤にも若いうちに飲んだほうがおいしい早飲みタイプ、じっくり寝かせてからのほうがおいしい熟成タイプ、白も同様、そのほかに、食前酒用の軽いワインやシャンパン、シャンパンとは法律上のカテゴリーが異なるスパークリングワイン、食後酒用のグラッパやマルサラに至るまで、ぶどうが原料のお酒のすべてをカバーしなければならない講義なので、本気で内容の濃い授業にしようと思ったらいくらでもやることはある。
日本語での講義担当は本職のソムリエさん。私は、彼の日本語解説を、コンクールで審査される場合のフランス語に直し、その直し方のコツを解説する。
今月はじつはこの年間の講義の最終月で、フィナーレにふさわしく内容がヘビー級。担当ソムリエさんから前もって「次回はかくかくしかじかのワインを取り上げます。」と銘柄リストがもらえるのはいいが、これが日本語で書かているからたまんない。まずそのままの日本語でネット検索をかける。星の数ほどある販売サイトなどに原語のつづりが発見できればしめたもの。こんどはそれで検索をかけ、フランスワインならフランスのサイトで、ネイティブの専門家が書いているテイスティングコメントを探し出し、たたき台にして知識を固めておく。あとは、実際に教壇で応用を効かせて講義する、という段取りだ。
しかし。次回の講義のために下調べしなければならないのは「トカイ」というハンガリーのデザートワイン。デザートワインに詳しい人にとっては、すでになじみの銘柄だろうが、知らない人は知らないし、はたまた、それがテイスティングコンテストに出題されることを想定してフランス語でのコメントを思い浮かべる、というのは、なんとも、言語中枢クロスオーバー感覚を伴うのよね。
ひとくちに「トカイ」といっても、それは地方の名前で、生産者の固有名詞は星の数ほどあるんだし、それを原語で検索してみろと言われても、ハンガリー語だよ、どうすんの??
しかも、フランス人はどちらかというと、自国産のいろんな食後酒があるものだから、トカイには興味が薄いらしい・・・フランス語での評価コメントがなかなかでてこない。しかたがないので、どうにかこうにか、フランス人よりは心が広そうなイタリア人とか、自国でほとんどワインを生産できないイギリス人のコメントに頼ることになる。
でもこれもみつかればラッキー、ってなもので、ひどいときはやっと辿り着いたスペイン語のコメントを、イタリア語の知識で解読し、それを、ワイン評価の権威である「おフランス」の教則本にてらして最終翻訳する、という順路しかない。
たかがワイン、されどワイン。適正な評価は、製造過程と同様、かくも手間ひまがかかるものなのでしょうぞ。