アースの皆既日食旅行記(16)
日食が始まってから1時間と少し。
日食の食分(欠ける割合)が大きくなるに連れ、周囲の光量もどんどん減って行く。99%ともなると、かなりの暗さである。
だが太陽の光とは本当にすごいもので、残り1%になってもまだ相当に明るい。
ちなみに、2012年5月に日本で「金環日食」があったが、あのときの食分は、最大でも約97%だった。何となく暗くなった感じはあったはずだが、皆既日食の経験者からすると、97%と99%、そして99%と100%ではぜんぜん違う。
※金環日食:皆既日食のときよりも月が地球に近いため、太陽が月からはみ出し、太いリング状に見える。
99%を過ぎると、全員の視線が空の一点に釘付けになる。
食分が99.9999%になっても、まだ日食グラスを手放すことはできない。ほんとうにすごいエネルギーだ。
太陽はどんどん細くなっていく。最後はほとんど線状になり、その線がすーっと短くなって行き、ほとんど点になり・・皆既が始まる瞬間には、いわゆる「ダイヤモンドリング」という現象が見られる。
このリング、日食専用グラスを外して肉眼の状態にしないと、十分に楽しむことはできない。しかし早く外し過ぎると、目をやられる。このタイミングが非常に難しいので、初めてだと見逃してしまうことがある。
ところで「ダイヤモンドリング」とは何か。
何回か前に、「地球から見て、月と太陽の見かけ上の大きさはぴったり同じ」と説明した。しかし地球と同じく固体から成る月の場合、実は「完全な球」ではなく、高い山や深い谷など、表面にかなりの起伏がある。
ダイヤモンドリングとは、そうした月の谷間から、太陽の光がごく一部漏れて見える現象を言う。皆既が始まる瞬間と終わった瞬間の2回見ることができるのだが、言葉では非常に説明しにくいので、時間のある方は映像を見ていただく方がいいかもしれない。
※以下はNASAの映像。
https://www.youtube.com/watch?v=_q0eKuEYwfY
最初はすでに月と太陽が完全に重なっている状態だ。11秒頃、皆既が終わった次の瞬間、右側にまばゆいばかりの光が差す。これと周りの細い円を組み合わせて、「ダイヤモンドリング」に見立てるわけである。
42秒頃に真っ暗になるのは、カメラのレンズが溶けないよう、フィルターをつけたため。人間はカメラよりもずっと早く(皆既が終わった次の瞬間に)日食専用グラスを使用する必要がある。
このダイヤモンドリングが、皆既直前と直後の2回、見られる。
上記映像を見ていただくと、「なかなかきれいね」くらいの感想は出るかもしれない。だがカメラは人間の目より多くの光を拾うため、肉眼で見る時よりもはるかに時間が長く、べたっとした質感で映ってしまう。
肉眼では、時間にして最大でも1秒ほど。太陽のきらめきは映像よりずっと繊細で、しかし鋭く、まばゆい。そして圧倒的な透明感がある。
何度も言う。本物はこの映像よりはるかにはるかにはるかに・・・・美しく、自然に涙がこぼれ落ち、身体が震えるほどだ。
ついに皆既。月と太陽が完全に重なった。