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アースの皆既日食旅行記(7)

アース

通訳・翻訳者リレーブログ

8月20日、いよいよ日食の観測予定地に向けて出発する。

ポートランドからコロンビア渓谷に沿って東進し、途中で川と分かれる形で南下。ざっと300kmの道程である。普段なら大したことのない距離だが、この日はさすがにところどころで渋滞にぶつかった。

コロンビア渓谷でも特に美しい場所、興味深い場所になるべく寄っていこう、という考えは誰もが同じだったようで、数kmごとに現れるビューポイントの前はすべて渋滞。結局、前日にわたしとサラが作成したリストのうち、まともに消化できたのは1つ、しかも出発してすぐのポイントだけであった。

しかしこの日は、途中で止まっても、ちょっと待っていればすぐ動くし、ビューポイントを過ぎれはスムーズに流れ出すし、大したことないな、とわたしは思い始めていた。わたしが「最も厳しい状況」として思い浮かべていたのは、日本のお盆やGW並みの渋滞だったからだ。

しかしカリフォルニアの5車線のフリーウェイでがんがん飛ばすことに慣れているジョンとサラは、予想通りというべきか、こらえ性がない。性格的にはのんびり屋さんで、がつがつしたところはまったくない2人だが、やはり相対的な問題だろうか。

すぐに予定をすべてすっ飛ばして、停車は最小限にとどめ、とにかく先に進もう、ということになった。しかし車内では、文化的背景の違うわたしという人間がいるせいか、硬軟両面で話が尽きることがない。

地球温暖化の問題。
遺伝子組み換え大豆の使用の是非。
フリーウェイとハイウェイの違い。
T大統領の話。
保安官の選び方。
フリーウェイが無料なら、清掃代や落下物除去の費用はいったいどこから出てくんのさ問題。
いったいどうやって3つの文字(漢字・平仮名・片仮名)を使いわけてんのさ問題。
昨日ネットで見たアンパンマンの巻き寿司で、ほっぺに使ってあったピンクの物体はなんなのさ問題。

的な話題まで、話は止まらない。

アンパンマンのほっぺに使われていたのが「田麩(でんぶ)」だということは見てすぐに分かったが、その正確な説明についてはネットに頼るしかなく、日本人として忸怩たる思いであった。

あと、日本語は話せないものの、漢字の成り立ち(表意文字であって、組み合わせることで様々な意味が表せることなど)については割と詳しいジョンが、平仮名と片仮名の使い分け、すなわち「どちらも表音文字で、同じ音に対してそれぞれ一文字が割り当てられているが、ケースバイケースで使い分ける。特に外国由来の言葉はカタカナで表す」ことを知り、いたく感心していた。
ジョン「じゃあ、日本人は何万とある漢字を覚える前に、平仮名と片仮名をそれぞれ50個だか覚えるわけ」
わたし「そう」
ジョン「はーっ!」
この「はーっ!」にどんな思いが込められていたのか、今となっては分からない。「すげー」なのか、「なんつー無駄なことを」なのか。

堅い方の問題では、オバマケア開始後のアメリカの医療保険の状況を聞こうと意気込んでいったわたしだが、車内で話を持ち出したところ、「それは。複雑怪奇。車の中で話せる話題じゃないから、また後でね」と言われ、そのまま立ち消えになってしまった。残念。

しかしひとつだけ、どうしても気になることがある。そもそも、なんでアメリカの医療費はバカ高なのか(盲腸の手術だけで数百万とか)という疑問だ。これに対しては、「そりゃ値上がりするしねえ」という身も蓋もない返事が返ってきた。もちろん、それが第一の理由ではない、とのフォローはあったが。

言われてみれば、日本人はデフレに慣れきってしまい、健康保険の負担割合の上昇こそ心配するが、医療費そのものが「値上がり」することはないとなんとなく感じている人が多いのではないか。しかし考えてみれば、他の商品が値上がりするのに、医療費だけが据え置きなんてことは、それこそあり得ない。それでも盲腸で何百万は行き過ぎだと思うが。

あと、渡米前からひとつ気になっていたことがあった。アメリカの第45代大統領であるT氏に対する2人の見方である。

日本人は、ミスターTの物言いや態度だけを見て、ああだこうだ言い放題であるが、彼らにとっては、曲がりなりにも中央行政府の長であり、軍隊の最高司令官であり、自国や自分たちの運命を左右するかもしれない存在である。ジョンやサラは、性格的にはどう考えてもミスターTとは合わないが、政策的にはもしかしたら支持者ということがあり得るかもしれない。

もちろん、それならそれで構わない。ミスターTに対するわたしの印象は、数々のメディアやネットの情報で、きついバイアスがかかったものかもしれないし、彼らが特定の政治家の支持者だったからといって、我々の関係が変わることはあり得ない。だがミスターTに関しては、支持するしないを巡って口論となり、離婚した夫婦すらいると伝えられるように、支持するかしないか、またその理由によっては、少し見方が変わる可能性はあるな、と思っていた。

そこで、ポートランドでの最後の晩、おそるおそる聞いてみた。ミスタープレジデントについてどう思う?

ミスターTがテレビに映った瞬間のジョンのマネだといって、サラがその場でやってくれたのは、足でテレビのチャンネルを変えるジョンの仕草であった。ああこれは・・以前の日本の某政治家に対するわたしの反応とまったく一緒だ。

これでわたしの心に引っかかっていた小さなトゲがとれ、ハレバレ楽しい旅路に没頭できたのであった。

おっと。今回、日食とまったく関係がない。ま、いいか。

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記事を書いた人

アース

金沢在住の翻訳者(数年前にド田舎から脱出)。外国留学・在留経験ナシ。何でも楽しめる性格で、特に生き物と地球と宇宙が大好き。でも翻訳分野はなぜか金融・ビジネス(英語・西語)。宇宙旅行の資金を貯めるため、仕事の効率化(と単価アップ?!)を模索中。

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