アースの皆既日食旅行記(1)
2015年12月に惜しまれつつもリレーブログを終了されましたアースさんの特別寄稿「アースの皆既日食旅行記(2017年8月)」(全18回)です。
アースさんには現在、ハイキャリアで金融翻訳ポイント講座を担当していただいています。
https://www.hicareer.jp/trans/financial
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皆既日食とは、月が完全に太陽を隠す現象である。太陽が完全に隠れている時間は、長くても7分。短ければ一瞬。それを見るためだけに、地球の裏側までも足を伸ばすオバカな人たちがいる。何を隠そう(隠してないが)、わたしもその一人だ。
そういう病気にかかった人をEclipse Chaserと呼ぶ。
部分日食なら見たことあるよ〜あれっておもしろいよね〜と軽めのコメントをくださる方々が多いが、わたしと同様、日食病を患い、今回の日食にも同行してくれたジョン&サラ夫妻は、鼻息も荒くこう言う。
「99.99%まで欠ける部分日食でも、皆既日食(100%)とはぜんっぜん比べ物にならない。まったくベツモノ!!!」
わたしもこのコメントには完全同意する。今回の旅行中、アメリカ人でも特にフレンドリーなジョンは、会う人ほぼ全員にこの話をしていた。まるで皆既日食普及委員を自認しているかのようだ。いや、何を隠そう(隠してないけど)わたしもそうである。
なぜみなさんに知っていただきたいか。好奇心だけは旺盛だが、滅多なことでは感動しないこのわたしを感動させるほど美しいから。世界で、いや文字通り宇宙で一番きれいなものだから。
2035年には日本列島を横断する形で皆既日食が起きるけれど、それまでに世界のどこかで何度も見る機会はある。読者のみなさんのうち、一人でも二人でも、世界最大のイベントを直接その目で見て、人生観が変わるほどの体験をしていただければ幸いである。
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皆既日食についてはわりと誤解が多いので、旅行記を始める前に、簡単に説明しておく。まず、「月が太陽を完全に隠す現象」が皆既日食、「部分的に隠す現象」が部分日食である。
皆既日食に関してよくある疑問としては、
「日本では見えないの?」
「毎年、同じ時期にあるの?」
「(欠ける割合以外に)部分日食と何が違うの?」
の3つが挙げられる。
場所。地球上のどこでも起こり得る。今回のように北米大陸で起きることもあれば、太平洋上でしか見られないこともある(人間の住んでいるところで起きるとは限らない)。
時期。そこそこ定期的には起こる。だが「だいたい数年おき」くらいの感じだし、一年の中の時期も一日の中の時間もバラバラである。
この2つだけで、重度の日食病に罹り、Eclipse Chaserとなってしまった暁には、どれほどの苦労を背負わねばならないか、想像できるのではないかと思う。
しかし3つめ。部分日食との圧倒的な違い。これだけで、その苦労は報われて余りある。これについてはおいおい語ろうと思う。
天文が趣味だと言うと、9割方「ろまんちっくですねぇ〜」と言われるが、天文というのは極めて正確かつ現実的な世界だ。実際、我が家にある「日食リスト2050」には、2017年から2050年までに起こるすべての日食の場所と時間が載っている。
明日の天気予報は外れても、30年先に起こる日食の時間が分単位で分かるのだ。直前までには、場所はほとんどメートル単位、時間は秒単位の予測が出る(理論的には何年先の日食でも予想は可能だそう。「正確な予想」に限っても、1000年分くらいは可能だとか)。
皆既を迎える瞬間は、どこの観測地でもカウントダウンが始まることが多いが、いままで数秒と外れたことはない。月なんてとてつもなくでかいモノが、太陽なんてとてつもなくバカでかいものを隠す瞬間を秒単位で予測する、しかもそれが限りなく100%に近い確率で実際に起こるって、いったいどこが浪漫チックなんだ。と思うのである。
といいつつ、皆既日食自体はほんとうに素晴らしく感動的な現象だ。
ああ。自分の貧困な語彙がうらめしい。このように貧困な語彙でもええよ、という方は、次回以降も引き続き読んでいただければ幸いである。
※なおジョン&サラ夫妻とは、1994年、チリの皆既日食の際に知り合った。その後、1998年(カリブ海のオランダ領アルバ島)の日食も同行。皆既日食を共に見るのは、今回が3回目である。