The World Is Flat!
ビジネス翻訳者として非常に遅ればせながら、 Thomas L. Friedmanの「The World Is Flat −A Brief History of The Twenty-First Century」を読みました。トータル600ページ近くとボリュームがありますが、本家アメリカでは売上200万部を突破したベストセラーです。日本語版は「フラット化する世界」(上・下)として、昨年5月に発行されていますが、私は残念ながら手にとっていません。
この本は、The World Is Flat、つまり世界がどのようにしてフラットになり、密接につながるようになってきているかを、アメリカからの視点で描いています。ITの飛躍的な発展に伴い、アメリカ・日本を始めとする先進国による、インドや中国へのアウトソーシングが劇的に増加する中、様々なイノベーションが次々に生まれてきています。世界のフラット化をいかにビジネスに結びつけ、成功させているか、アメリカ、インド、中国、日本の経営者を中心に行った取材をもとに、数多くの実例が紹介されています。
一番衝撃的だったのは、著者が2004年に日本を訪問した時のことを紹介した部分です。携帯電話ネットワークが充実しており、コンピューターがどこでも使えるという先進性が説明されており、日本に住む人にとってはどうということもない箇所でしょうが、「日本ってそんなに進んでいるのね!!」と、浦島太郎状態を痛感しました。
なにしろNZではブロードバンドの普及がかなり遅れており、光ファイバーは今のところ、一部大都市のビジネス用のみで、ADSLがようやく一般家庭に普及し始めた段階。「光? それって何?」状態なのです。
また、さすがピュリツァー賞を3度も受賞しているジャーナリストだけあって、文章が端的で、リズミカル。とても読みやすく、優れた英文の見本として勉強になりました。
ただ、読み終わった感想は、僭越ながら、「うーん、そうだよね」でした。もちろん、一つひとつの事例は興味深かったのですが、取材時点からすでに3年が経過しており、時代の先端を描いているがために、すでにその「先端」が先端でなくなってしまっている陳腐化を感じてしまいました。読む前の私は、もっと、もっと将来の展望を知ることができるのかと期待しすぎていたのでしょう。
例えば、本書では、インドへのアウトソーシングがフラット化の成功事例として数多く紹介されています。しかし、アメリカのアウトソーシング戦略は現在、行き詰まりを見せ始めており、見直しが行われていることがあちこちで報じられています。
また、イスラム社会の「フラット化」を考察する章は、西欧至上主義が鼻についてしまって、ちょっとついていけませんでした。
ただ、世界がフラット化に到るまでの経緯、その実態を具体的に知るうえで大変参考になるので、世界のビジネス界の現状把握のために、読んで損はないと思います。