署名
クレジットカードに使う署名には、楷書体で書いた漢字の名前を使っている。中学生で初めてパスポートを作る時も、大学生で初めてクレジットカードを作る時も、何の迷いもなく、漢字の名前を署名として登録した。以来、何十年にもわたって、ずっとこの漢字表記の署名を使っている(途中、結婚で姓が変わったけれど)。
日本人なのだから、ローマ字表記なんていやだ、日本人の誇りを持って漢字を使った方がいい!と思いこんでいたのだ。それに、万が一盗まれて、他人のふりをして使われる時でも、外国ではこの署名を真似するのは難しいはず、と考えたうえだった。
そしてニュージーランドに来てからも、免許証の取得や銀行口座の開設、そしてこちらで作ったクレジットカードにもすべて、この漢字の署名を使っている。なにしろ移住当初は、身分を証明できるものがパスポートしかない。日本みたいに住民登録制度もなく、印鑑証明もなく、健康保険証などもないので、免許証を取る前は、文字通り、パスポートだけが私が私であることの証明だったのだ。そして、そのパスポートに漢字の署名を使っていたので、あらゆる署名が漢字になったというわけ。
ところが今日、スーパーのレジでクレジットカードを使って支払い、署名をしたら、レジの女性に、「あんた、英語しゃべれるんでしょ(新聞を買っていたためと思われる)、どうしてこんなわけのわからない線で署名をするのさ」と言われた。もちろん英語だけれど、口調がこんな感じだった。
ちょっとびっくり。こんなことを言われたのは初めてだったし、こちらの人の署名だって、みみずがはったようで、どんなアルファベットが並べられているのか、推測できないものも多いのに。
「日本でずっとこれを使っていたから、こっちに来たからといって簡単には変えることはできないのよ」と、丁寧にお返事した。すると、「おーけー」と納得したような感じだったけれど、きっと私が書いた文字が心から不思議だったんだろうな。
車までカートを転がしている時に、「どうせなら、『パスポートに署名した時は、ニュージーランドで暮らすなんて想像もしていなかったんだよ!』と言えばよかったかなあ」と、ちょっと思った。