イギリス「窓」事典
イギリス「窓」事典 文学に見る窓文化、という本を読みました。470ページほどあって、ちょっとずつ目を通していったので、おそろしく時間はかかりましたが。
とにかく、最初から最後まで、ずらーっとイギリス建築に見られる窓について説明している本です。表題のとおり、英文学の代表的な作品に登場する窓をあれこれと紹介しています。
なぜこの本を購入したかというと、以前に、とあるドールハウスの説明文を翻訳する機会があったのがきっかけです。そのドールハウスは、実際の建築様式を取り入れた本格的なもので、説明にもふんだんに建築用語が使われていました。その用語についてインターネットで検索をしているうちに、この本の紹介サイトをたまたま見つけたのです。
翻訳作業中には間に合いませんでしたが、おもしろそうだったので目を通してみることにしました。
ガラスが貴重品だったころの鉄枠と木の扉の時代の窓からの歴史、様々なデザイン、形状の窓の説明などが非常に興味深かったです。
たとえば、High Windowというのは、「高い位置にある窓」の意味に誤訳されることが多いですが、実際には「縦に長い窓」である、とのこと。西洋建築では石やレンガを積み重ねた「壁」を基本構造とするので、窓の面積を大きくするのは難しい。さらに、上からの重みで窓がゆがみつぶれるのを防ぐ目的で、「縦長」になるのが通例。
また、East Windowというのは、教会の場合、「東向きの窓」と訳すのではなく、「後陣窓」となります。−キリスト教の教会では出入り口(west door)は西端部に位置し、西向きになる。その反対側の東端部、つまり堂内で一番奥に当たるとろこには後陣(apse)がきて、そこには祭壇(alter)が設置される。この後陣の東側壁面で祭壇の背後に設けられる窓を指す。そして、ヨーロッパから見て、聖地エルサレムは東方に当たるため、東端部に置かれた祭壇に向かって祈ることは、とりもなおさず彼方にあるエルサレムの遥拝をも意味することになる。−
ということで、「ほおお、知らなかった」という箇所がたくさんありました。イギリスほどではありませんが、オークランドにはかなり古い建築物が残っています。今まではそれぞれの建物の窓なんて意識したことがありませんでしたが、この本のお陰でいろいろな窓を見つけて楽しむことができるようになりました。
この本の値段は9,600円なので決して安いとは言えませんが、内容の充実度からすると、決して損はないと思います。窓を通じて欧米の生活をうかがい知ることができるので、特に、文芸翻訳を目指す方には必須といえるかも。私のように産業翻訳がメインで、建築は専門外であっても、有益な情報がたくさんありました。
ただ、一つだけ欠点が。重いのです。300点以上の数々の窓の写真(これだけでもいったいどうやって集めたのだろうかと頭が下がる)の印刷うつりを良くするために、コート紙(つるつるの光沢がある紙)を使っているのでずっしりと重いのです。
アマゾンで注文して、知り合いがニュージーランドに来た時に持ってきてもらったので、現物を手にしたのは実際に持ってきてもらった後。受け取った瞬間に、「こんなに重かったのですか!」と、運んでくれた知り合いに申し訳なく思ったのでした。