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ダニーデン旅行後編

みなみ

通訳・翻訳者リレーブログ

 ダニーデン旅行3日目は、市内観光の続き。あまり期待せずに行ったオルベストン邸(Olveston House)が思いの外、心に残りました。ここは、19世紀後半から20世紀初めにかけてダニーデンで貿易商として大成功を収めたユダヤ系英国人、David Theomin氏の邸宅です。現在はダニーデン市の持ち物となっており、約1時間のガイドツアーによってのみ見学が可能。私たちが参加したツアーは、私たち家族3人と年配のご夫婦というこじんまりしたサイズだったので、部屋のインテリアや当時の様子など、ガイドの女性が丁寧に説明してくれるのを聞きながら、それぞれの部屋をゆっくりと堪能することができました。ちなみにオルベストンというのは、Theomin氏が英国で住んでいた時の地名です。
 もともと裕福な家庭で育ったTheomin氏は、オーストラリア・メルボルンでMarieさんと結婚して、ダニーデンへやってきます。そして、宝石、時計、ピアノなどの貿易で大成功をおさめ、贅を尽くしたオルベストン邸を1904〜1906年に建築します。
 音楽や美術に造詣が深く、美術館のパトロン役も担っていたTheomin氏が作り上げたオルベストン邸は、まるで美術館のよう。でも、私が印象に残ったのは、この家の最後の持ち主で、Theomin氏の娘、Dorothyさんです。お父さん、お母さんが亡くなり、お兄さんも子供が生まれる前に病気で亡くなってしまい、この広いオルベストン邸に1966年に亡くなるまで住んでいました。そして生涯独身を通したDorothyさんには相続人がおらず、遺言でこの屋敷をダニーデン市に寄付したのです。
 この家には建築当時の最先端の技術が取り入れられており、各部屋に取り付けられた暖炉から熱が来るようにしていたり(いわゆるセントラルヒーティング)、各部屋とつながる室内電話(今でも使えるそうです)などがあります。
 客間にはSteinwayのピアノが置いてあって、「遺言の一つに、このピアノは希望者に自由に弾いてもらうこと、というのがあります。ですから、どうぞ、弾いてみてください」と言われました。ちょっと緊張しましたが、せっかくだから、Dorothyさんの遺言に甘えて、弾かせてもらいました。曲は、ニュージーランドを舞台にした映画「The Piano(邦題:ピアノレッスン)」のテーマ曲のさわり部分。ピアノはかなり古くて、ちょっと弾きにくかったですが、いい思い出になりました。
 それにしてもこんな遺言を残したDrothyさんは、この大きなお屋敷で、どんな気持ちでどんなふうに住んでいたんだろう。あの当時、上流階級のお嬢様が独身を通す、って、人間嫌いだったりするのかしら。と、ガイドツアーが終わったあと、非常に関心が高まりました。インターネットで検索してみると、このオルベストン邸のカーテンの織り地の再現を担当した女性が、Dorothyさんの生涯をまとめた本を出版していました。さっそく図書館で取り寄せて読んでみると、意外なことに、彼女は非常に社交的で、趣味は山登りとゴルフ。山登りは、Mount Cookやその周辺の高山を登る本格的なもの。彼女が初めて登はんして、名前を付けた山まであります。さらにゴルフも、非常にうまかった様子。
 カメラにも凝っていたようで、美しい山の風景の写真が本に数々収められています。また、1920年代にオルベストン邸のテラスで撮影した、お父さんとお母さんの写真も掲載されています。2人とも、ちょっと恥ずかしそうに、でも笑顔でポーズを取っていて、娘への愛情が伝わってくる写真です。
 本は、Dorothyさんのお父さん、お母さん宛の手紙や残された写真をメインに、たんたんと彼女の人生を紹介していました。特に波瀾万丈なスキャンダルなどはなく、彼女は堅実に、独立心をもって、楽しく人生を過ごしてきたのだなあ、と感じました。こうやって知らなかったこと、新しい出会いがあるから、旅って楽しいです。

 オルベストン邸のサイトはこちら__>http://www.olveston.co.nz/home.php
 

なんだかクッキーで組み立てたお家のよう。中のインテリアは重厚で、ゆったりとした静かな時間が流れています。

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記事を書いた人

みなみ

英日をメインとする翻訳者。2001年からニュージーランドで生活。家族は、夫(会社員)、娘(小学生)、ウサギ(ロップイヤー)。

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